PHASE- 02 二つの色 前編


俺の戦いは終わってはいない。
前大戦。あの狂気に満ちた俺達の戦いは、俺達の敗北で幕を閉じた。
俺達の戦いは、一時的に終わることができたんだ。
確かに、あの人たちのおかげで戦争は終わった。
それどころかあの人たちは、元々敵だった俺達を受け入れてくれた。
俺と初めて会った時も別に尊大な態度でもなく、
戦争に対する憂いの感情をその瞳に秘めながら、俺とあの人は慰霊碑を見ていたんだ。
幾ら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす―――
まだ俺が、その人を憎むべき敵と知らなかったときに無意識に出した言葉だ。
その言葉に対して、あの人はどう思ったんだろうか。
慰霊碑であの人と再会したとき、過去の俺の問いにあの人は答えた。
いくら花が吹き飛ばされても、僕らはまた、花を植えるよ―――
花を植える。
それは彼にとってどんな思いで言った言葉なんだろうか。
あの人はその言葉を告げた後に俺に手を差し出してきた。握手を交わそう。ということだろう。
歴戦の戦士の彼と握手をする。その様子は正に平和の契りを交わす、とでも表現すればいいのだろうか。
あの人は優しげな表情を俺に見せた。その表情は、他の人と比べることも出来ない位に眩しく。
一緒に戦おう。彼はそう俺に言葉を掛けてくれた。もちろん俺もこの人と平和の為に戦う気持ちは同じだった。
だけど、
俺にとっての大切な花は。
護ることの出来なかった命という名の花は。
もう、代わりはいないから。
もう、植えることが出来ないから。
もう、マユとステラには会えないから。
だから、俺は彼の手を、
あの人の―――キラさんの差し出してくれた平和の契りを、交わすことができなかったんだ。


夜明けの森。
辺りが静まり返り、人も動物も妖怪もあまり姿を見せない時。
その森の中で彼は夢から目を覚ます。
彼はこの世界とは別の世界からやって来た。
争いが続く狂気の世界から一転して、彼からすれば”平和すぎる”程度の世界。
しかし、長年晒されてきた緊張は急に解れることがなく、
本人は長めに睡眠をとったつもりでも、現実は人が起きる平均的な時間とはかなりかけ離れていた。
「ん・・・・ああっ」
軽く欠伸を出して、体を伸ばす。
彼、シンは軍人としての感覚が身に染み付いていたため、毎朝――というのは宇宙で起きた直後の例えの1つでもあるのだが――無意識に体を動かしながら体の調子を整えるようにしていく。
「まだ、こんなに早いのか。長い間宇宙にいたから・・・か」
辺りを見回すと、寝る前にはいた人影が消えていることにシンは気付く。
「にとりは居ないのか」
にとり――河城にとりという名前は彼が数日に知り合った人物の名前だ。
彼女の提案でシンとにとりは村経由で博麗神社と言う名前の建物を目指していた。
夕方の時に徒歩で墜落地点の川――にとり曰く妖怪の山という地名らしい――からおおよそ深夜程まで歩き、休憩という名目で寝ていたのだ。
もちろんシンのMSのウエポンラックには簡単なサバイバルキットと制服と潜入用の私服ぐらいしか無かったので寝具などあるはずもなく、当然地べたで野宿だった。それでもこの自然の中で横になれるだけでも安らげたが。
彼女もシンの記憶の中では3m離れたところで地面で寝ていたはずだった。
不意に彼女の寝る前の最後の発言を思い出す。
「おい!いくら夜だからって変なことおこす気になるのはやめろよ!」
「そんな気分になれるか!」
思い返してみればそんなににとりもキツい口調じゃなかった気がする。本気で言ったわけじゃないのだろう。
「せっかく起きたんだから洗顔でもしとくか」
軍人の習慣で起きたとはいえ人間という生き物である以上、起きた直後も眠気が少しは残るし顔もあらわなければならない。近くに水音もしていた。
彼は水音を頼りに川のほとりに出た。
すると。
彼女がいた。にとりが。
しかし、服装が違う。
上着を脱ぎ、上半身は白い肌とシャツをあらわにしている。
つい先ほどまで水浴びしていたらしく、その服は濡れていて、白いシャツから内側の肌が見える。
彼女はきゅうりを頬張りながら水面を楽しそうに眺めている。
そして、問題は起きた。
彼女の瞳がこちらと目が合った。その瞬間にとりの頬に滝汗が流れ落ちる。
シンは本能的に恐怖を悟る。戦いのときとは違う別のベクトルの恐怖を。
シンはとっさに近くの茂みに隠れながら様子を窺う。
彼女の顔の白い肌がみるみる赤くなっていく。そして、その瞳はこちらを捉えている。
まずい、見つかっている。
シンは声を漏らさず、ゆっくりと後退していく。
3歩目を踏み出そうとしたその時。
「そ・こ・で!なにを!してるんだぁーッ!」
彼女は大声をあげこちらに真っ直ぐに飛んでくる。文字通りに。
大きな衝撃とやわらかさ。
シンは彼女の体当たりを食らい、視界が上に向いたところで気を失った。
「まったく!どういうことだよ!」
シンが目を覚ました時、シン達は村のすぐ近くにいた。
彼女が運んでいた…とシンは思う。
「えーと、なんというか…君って水浴び大好きなんだな」
「もっと他にいうべきことがあるだろう!?乙女の体を見たんだぞ!」
「ああ!それなら大丈夫だ。にとりはシャツ着てたじゃないか」
「しれっとした態度をとるな!それ以外のものも見えたんじゃないか?!」
にとりが激高しながらシンを問い詰める。
シンは気を失う前の記憶を辿りながら返答する。
「えーと、君が飛べるとは知らなかった」
「ちがうだろ!」
「じゃあ、なんだっていうんだよ!」
「それを私に聞くか!?」
言い争いが続く。
痺れを切らしたにとりは、手を差し出し、
「きゅうり、10本」
「は!?」
「それで、許してあげる」
と、怒った顔をシンに見せながら言い放った。
「金ないんだけど、ダメか?」
にとりは怒った顔を崩さず、
「じゃあ、MS工学ってシンが前に言っていたやつ教えて」
「俺はあまり得意じゃな――」
「いいから教えて!」
シンは渋々―また今度な。と了承すると、にとりは怒った顔を徐々に緩ませ顔を赤くしながらシンから顔をそむける。その顔には喜びの感情も入っているようにも見えた。
もしかして、作戦だったのだろうか。
シンは額に手を当てながら悔やむ。なんで川に居ると分からなかったんだと。
そこで、彼女に無視された問いを思い出し、もう一度問う。
「そういや、にとり。なんで君は飛べるんだ?」
「ん?知らないの?この世界の住民は霊力さえ使えれば空をとべたりとか出来るんだよ」
「そんな非常識が…まるでMSだな」
空を飛べる人型。シンの中のイメージはまさにMSと合致していた。
MSの戦闘自体も軍隊の白兵戦の延長だ。
相手に銃を向け、メインカメラと言う名の目で敵を追い、レーダーという名の気配で敵を探して察知する。
人とMSの違うところは主にコクピットで左右される生存性か、四肢がもがれても推進系がやられてなければ動けるのと、前後左右しか動けない生身とは違い、MSは空も飛べる3次元的な戦いになる所だ。
もし、生身で空を飛べるようなことが出来、なおかつ戦いとなったらその光景は驚愕だろう。
シンは想像して考える。それと同時ににとりに疑問が浮かぶ。
「って、にとり飛べるんなら運んでくれよ」
冷静ににとりに突っ込みをいれる。
「霊力つかうし、疲れるんだけど…」
「デスティニーが使えれば苦労はしない。にとりが散らばった部品を修理してくれたおかげで見た目は治ったけど、まだシステムもVPSも治ってないんだ。それだけでもありがたいけどさ」
デスティニーは前日のダメージでまだ修理中だ。今は川から引き揚げてにとりの作業場近くに簡易MSハンガー――これもにとりが作ってくれたものだが――に置いてある。
「パーツは近くに落ちてたから直せたけどね。そのVPSってやつの相転移装甲システムだっけ?それがわからないのさ。シンが落ちてきたときにはすでにボロボロだったんだもの」
2人でシンのMSについて会話しながら歩いていく。その口調は別段厳しい口調ではなく、冷静に会話を進ませていく。
「ハイパーデュートリオンもトラブルでエネルギーがあまり上がらないんだ。この世界にでも核エネルギーがあれば、そのエネルギーで直せるのにな」
「核…か」
にとりは一瞬だけ真剣な表情になる。そしてその表情はにとりの足元を見た直後に消え、こちらを見る。
「今はいろいろあるしね。まずは神社に行こう。シン」
「ん…ああ。わかった」
シンはにとりの表情を診ながら応答する。シンとしてはさっきのにとりの表情が気になったが、
この先のことを考えすぎても仕方がない。
まずは1つ1つ出来ることから、前を見ながら進んでいこう。
シンはそう思い、2人の人影は村に向かっていった。
その人は神として生まれた。
その神は奇跡を操れた。
その者は人であると同時に神でもある存在だった。
彼女は運命を嫌っていた。
決められた道、祀られる象徴。他の人との相容れない心情。
彼女は頼ることも頼られることもなく現実を生きていた。
そして、自分のするべきことを告げられ、実行していた。
しかし、無駄だった。
この”現実”では。この”常識”では。
すべきことを達成できない。
『信仰』を得ることが出来ない。
彼女は絶望する。
彼女を取り巻くどうしようもない世界という名の敵に。
ならば。せめて。
彼女は懐から白い紙に文字―――その文字は普通の人には読むことすらも適わない不思議な文字だった―――で書かれた1つの札を取り出し、自分の家でもあり自分という現人神を祀る神社である土地の隅に貼る。
そして、1つずつ土地の敷地内のすみにまんべんなく隙間を埋めるように貼っていく。
すべてを貼り終えた後に、彼女は神社の前に立ち長い、長い経を唱えていく。
彼女はそれを一心不乱で唱える。
その彼女が光に包まれ、輝いている神秘的な光景は、仮に見る人がいればこう発言するであろう。
―――神のようだ。と。
しかし、この世界にはそれすらも言う人などいない。
神の存在を忘れ、科学に、社会に、
信仰を何一つ必要とせずに人が生きていける世界に彼女と、2つの神は不要だった。
―――ならば、その常識がない世界へ。
―――神の存在がある世界へ。
彼女は頭の中でそれを明確にイメージする。
転移術法。それは、指定した場所を莫大な霊力で無理やり移動させる方法。
そして、その先は術者のイメージで決まる。
精神を統一する。
目を瞑った彼女の暗闇の世界の中で1つの『世界』が見える。
暗闇の世界で、彼女はそれを追う。
やがて、その『世界』追いつき、手に取るイメージが見えた途端。
その世界から彼女たちの存在は消えていった。
二度と戻る気はない。
彼女達は、そう決めていた――
階段を登りきる。
にとりが言っていた博麗神社まであとすこし。
シンとにとりは博麗神社に上ることの出来る階段を進んでいた。
別段長いわけでもない。
ただ、ここにたどり着くまでに疲労――おもに彼女の用件で――消耗していた。
「はやく上りなよー」
にとりが地面から少し浮きながらシンに話しかける。
霊力のフィードバックによる疲労のほうが長時間の徒歩よりは疲れが軽いのだろう。
シンは汗を掻きながら歩いていた。
気温も少々高い。
コーディネイターのシンといえども、肉体関係の調整をされていないシンには普通の人間同様に疲弊していた。
怪我を負っていた時期もあり、運動をしようにも出来なかったため、疲れやすくなっていた為だ。
にとりの話では霊力を持っているものは空を飛ぶのが普通なのだろう。
シンはもしかしたら自分のような人間がここでは異端なのだろうか?と想像してやめた。
余計なことを考えれば余計に疲れると思ったからだ。
最後の1段を登りきる。
鳥居の先にシンとにとりが見たものは、
桜吹雪に包まれる紅と白の人影。
風になびくその服装は、この世の物ではない様にシン印象づけ、
脳裏に強く焼き付ける。
その2色のコントラストはこの世界の誰にも印象付けられる代物だ。
凛と整った顔立ちは見る者を安心させ、魅了させる。
その顔は、常に何かから一線を越えているような表情を見せている。
それは『無』なのだろうか。それとも認識することすら出来ないものなのか。
ただ見ただけでも、シン神秘的な雰囲気に圧倒させられずにはいられなかった。
「あんたは…誰なんだ?」
彼女は振り向く。その瞳は真っ直ぐとこちらを捉える。
そして、ゆっくりと唇が動く。
「私は、博麗 霊夢。この神社の巫女よ」
彼女は穏やかに告げた。


PHASE-03 二つの色 後編


博麗神社。
この幻想郷の外の世界との境界に位置する神社は、人里離れた山奥にそれは在る。
ここに住んでいるのは博麗神社の巫女、博麗霊夢ただ1人。
霊夢はいつもの様に早起きをし、神社の奥から竹箒を持ってくる。
ここ数日は桜が舞い散り、境内は桜の花弁だらけ。
今日も強い春風が吹き、境内を桃色で埋め尽くされていた。
霊夢は軽く溜息をつくと、竹箒を使い掃除を始めた。
その時だった。
神社の鳥居に2つの影が近づく。
「あんたは…誰なんだ?」
霊夢が境内を掃除していた時、背後から声がした。
いきなり来て挨拶も無く質問するなんて、里の子供かしら―――
そう思い、声の主の姿を見ようと振り向く。
すると、2つの人影の正体が見えた。
片方は何時ぞやの河童。たしか、河城にとりという名だったか。
そして、本命のもう1人の方に目を向ける。
しかしその姿は霊夢の考えていた想像とは違った。
透き通るような白い肌に寝癖がついているような跳ねた黒髪。
服装は明らかに幻想郷では見ないデザイン。恐らく、外来人であるのだろう。
霊夢は彼の顔に注目する。特にその瞳に。
人というものは瞳を見れば直感でどういう人なのかが霊夢には分かるからだ。
その瞳は例えるなら紅玉の輝き。
その奥には炎の様に強く燃える意思が垣間見える。
見た目からして年齢は16,7歳ぐらいか。やはり自分よりは幼く見える。
しかし彼の態度、表情、そして瞳からは様々なもの体験していた事を窺わせるものがあった。
霊夢の直感が囁く。
この子は只者じゃない―――と。
ならば、その問いに答えてあげよう。
霊夢は自分でも珍しいくらいにそう思い、彼に穏やかに告げる。
「私は、博麗 霊夢。この神社の巫女よ」
彼はあっけにとられてる様子だった。
「それで?一体どんな用件で来たのかしら?」
霊夢が問う。
シン、霊夢、にとりの3人は博麗神社の参拝所に立っている。
「ああ、自己紹介が遅れた。俺の名前はシン・アスカだ」
「霊夢。こいつは外来人らしいんだけど、元の場所に戻れるように手配してくれないか?」
シンが名乗り、にとりが状況を説明する。
「えーと…とりあえず詳しく聴かせてもらえない?シン…だったわよね」
「ああ、そうだけど?」
「一つ言っていいかしら?いきなり会って年上に礼儀もないのはちょっと失礼じゃない?」
霊夢が冗談混じりにそう言い放つと、シンの表情が強張る。
「す、すいません!霊夢さん」
霊夢はあわてたシンの顔を見て少し微笑む。
普段誰にも興味をあまり持たない霊夢には珍しいやりとりだった。
「まあ、いいわ。私の方が年上だけど、そこまで咎めたりしないから」
にとりもそのやり取りを見て笑みを零す。
シンのあわてたときの顔が面白くて堪らないからだ。
シンがにとりの肌を見たときはシンが寝起きなのもあってあまり大きいリアクションがなかったが、
このときのシンは背筋を伸ばして緊張しているようだった。
にとりの言うとおり、霊夢が元の場所に戻してくれるなら霊夢はシンにとっての恩人となる。
シンはそれを意識しているのか、霊夢に態度を指摘された途端に緊張している。
にとりと霊夢にはそれが可笑しくて堪らないのだ。
当のシン本人は、それどころでもなかったが。
「そんなに緊張しないで。別に話すときに敬語を求めたりしないから」
「ええ…わかりました」
「それじゃ、シン。どうやって来たのか教えてもらえる?それと、貴方はどこから来たのかも」
その言葉を聞き、シンは説明を始める。
任務の途中で宇宙に謎のブラックホールらしきものに機体ごと呑まれたこと。
その中は暗く、あり得ない大きさの眼が沢山見えたこと。
再び機体の外の様子を見たらいつの間にかこの幻想郷の空にいたこと。
…墜落してデスティニーが大きなダメージを負い、にとりに厄介になったこと。
かれこれ喋って30分はくだらないだろうか。
にとりも霊夢も眼を見開いてそれを聞く。
「…ってことなんだ。帰ろうにも、俺の機体はダメージを負っているし、どうにかなりません?」
霊夢は考え込む。彼女はシンの質問に答える前に、一つの疑問について質問した。
「ちょっといいかしら?つまり貴方は宇宙からやって来たってことかしら?そんなケース聞いたことないわよ」
「私も初めて聞いたよ…もしかしてシンは外の世界とはまた別の世界の人なんじゃ…」
「そ、そんな怖い人みたいに言うなよ。霊夢さんもにとりも。そんな宇宙人ってわけじゃないんだから」
シンが手を横に振りながら否定する。シン自体は正真正銘の地球人だ。あえてナチュラルの人と違う所があるなら健康面を遺伝子調整されたコ―ディネイターということぐらいだが、
別にシンはあまり自分のことをコ―ディネイターと意識したことはなかった。
シンの父も母も妹もコ―ディネイターだが全員、肉体的、知識的なところは何一つ弄っていない。
これは、シンの父親も母親も努力家で気真面目だったことも大きい。
だが、コ―ディネイターというものは人体を調整すればするほどリスクが高いのが一番の理由だ。
現にコ―ディネイターでほぼ占められている工業コロニー群、”プラント”はコ―ディネイター同士の出生率が著しく低い。
その影響で遺伝子的な問題があれば配偶者も選べないことが多々ある。
シンは中立国”オーブ”の生まれだったが、過去の『悪夢』でプラントに移り住んでいた。
あの時のお世話になったオーブの将校の事は今でも忘れていない。今はどこで暮らしているのだろうか。
「とりあえず、聞いた限りだと今までに聞いたことが無いことだらけね」
「墜落しながら落ちてくるのはシンぐらいだしね」
「それで?とりあえずどうしたらいいんだ?霊夢さん」
「何とかしてあげたいけど、今は私も手が離せないの。異変の予感がするし」
それを聞くとシンは不審な顔をした。
「異変ってなんですか?」
「何かが起こるのよ。地震が起きたり、霧が出たり、営業停止を言い放ってきたりね」
「霊夢の直感はあたるからね。ほぼ未来予測と同義かもね」
未来予測。それは、科学の発展したC.Eでも未だ成し得ていないことだ。
やはり、此処はC.Eとはいろいろと違う。
シンはここ数日でそれを噛み締めていた。
「まずシンの言うデスティニーをなおしてみたらどう?確か核が必要とかいってたわよね」
「ああ。なにか心当たりはありませんか?」
「一応あるわ。貴方が落ちてきた山の上に産業革命が大好きな神様がいるの」
「…なんですか、それ?」
「言葉通りよ、以前その神様のせいでいろいろとあったからね」
霊夢は事実を言った。
そのつもりなのだが、シンの心の中は疑問符で沢山だった。
「今は手が空いている方だし、そこまで連れてってあげる。私の能力なら2人分でも霊力を消費しないし」
「能力?」
「そこの河童さんから聞いていないのかしら?霊力を使える人は何かしらの能力があるものよ。ちなみに私は何にも染まらない”空を飛ぶ程度の能力”」
「ちなみに私は”水を操る程度の能力”だ」
「そうなのか。俺の知らないことばかりだな、此処は…」
口では簡単に言うシンだが、内心はかなり戸惑っていた。
旧時代風の世界に、C.Eではありえないことばかり。戸惑わない方がおかしい。
「なら早速行くわよ、妖怪の山へ」
「は、はい。なあ、にとり」
「なんだよ、シン」
「ここから先は霊夢さんと俺で行くから。にとりは俺のデスティニーを診ていてくれないか?」
ここから先は全員で行く必要はない。それに、シンとしては一刻も早くデスティニーには直ってほしかった。それゆえの発言だ。
「いいけど、大丈夫なのか?正直お前1人じゃ眼を離せないぞ」
「なんだよ、急に俺を子供扱いするのか」
「実質私の方が年上だ!」
「え!?そうなのか!」
「べ…別に今までの対応でいいよっ!それよか、これ」
そう言い、にとりは顔を赤くしながら一つの鉄でできた機械を渡す。
シンはそれを見るのは初めてだが、どこかで見たことがあるような気がしてならなかった。
「これ…って」
「シンが教えてくれたMS工学ってやつを応用したんだよ。デスティニーってやつの肩についてるものを模して作ったんだ」
にとりは尚も顔を赤くしながら続ける。
ああ、そうか。
にとりは技術を知れば即座に行使できる。
それはにとりが様々な機械を弄り練度が高いことを表している。
嘗ての日本人も技術の練度が高く、外国の世界の技術を瞬く間に吸収していった逸話をシンは過去に聞いたことがある。
にとりも要はそれと同じなのだ。
シンはにとりの煤だらけの手からダウンサイジングされた、『フラッシュエッジ2』を手に取る。
「そ、それは試作品だからなっ!シンにモニターとして…」
「ありがとな。にとり。俺のために、してくれたんだな」
「えっ…」
シンはそう言うと、にとりの帽子越しに頭をなでる。
せめてものお礼のつもりだった。
「なっ…!お、お礼はいつかしてもらうからな!きゅうり10本じゃゆるさないからな!」
にとりは顔を背ける。
「お取り込み中いいかしら?」
その時、霊夢が2人に話しかける。
「あまり時間をかけるつもりはないわよ。準備が出来たら、いらっしゃい」
そう言い、神社の中に入る。シンはそれを見て、にとりにあるものを渡す。
「なんだい?これは」
「ザフト軍製の無線機だ、いざという時にはこいつを使う。デスティニーが直ったらこいつで呼びかけてくれ」
シンはそう言い、霊夢に準備が出来たと伝える。
にとりはそれを受け取ると、
―――まったく。
と、小声でつぶやき、再び作業場に戻るために地を蹴った。


妖怪の山。
此処の付近で住んでいる”天狗”は幻想郷では珍しく、厳しい上下関係の社会で成り立っている集団だ。
そして、それは閉鎖的で侵入者を許さない。
霊夢とシンは妖怪の山の麓、”九天の滝”の滝つぼの傍の地面に降り立っていた。
「此処からは天狗の領域よ。見つかったら面倒だから全速力でいくわ」
「天狗ってなんですか?」
「分かりやすく言うとここから先は妖気を纏った烏がきたり、哨戒任務をしている天狗が来るのよ。あいつらは敵を見つけたらしつこいのよ」
「そうなのか…まるで軍隊だな」
「そっちではそういうものなのかもね」
シン自体には”天狗”のイメージはあまり上手くつかめていない。だが、自分のことを妖怪と言うにとりの件からすると、やはり人型の生き物なのだろう。
シンはそう考えていると、霊夢が手を伸ばしてくる。
「ここから先は危険よ。場合によってはその武器で打ち落としてもいいわ。それぐらいじゃ此処の生き物は死なないから」
霊夢はそういうとシンの手を掴み、霊力を集中させる。シンも落ちないように霊夢の手を握り返す。
青白い光が霊夢の足元に集まる。
淡い光が徐々に眩しく輝く。
「準備はいい!?」
「は、はい!」
「いくわよ!」
霊夢が叫び、大きく地面を蹴る。
その瞬間物凄いスピードで2人は空に急加速した。
頬を風が撫でる。
いや、撫でるっていう表現が似合うような生易しいものではない。
むしろ、叩きつけてくるような感覚をシンは覚えた。
上を向く。
霊夢の上空に複数の3つの人影が見える。
あれが霊夢の言う”天狗”なのだろう。
その人影にはまるで犬のような耳が頭上についている。やはり、あれも人ではないのだろう。
「山の見回りをしている白狼天狗よ!剣で斬りかかってくるから払って!」
「―――ッ!」
シンは手に持っていたにとりの作った機械『フラッシュエッジ』を起動させる。
白狼天狗の1人が大きな剣で斬りかかる。霊夢の片手が使えない以上、シンが応戦するしかない。
シンはフラッシュエッジで白狼天狗の剣を弾く。
弾いた衝撃で大きく体が揺れる。
「退きなさい!」
霊夢が振り向き、シンが弾いた天狗に対妖怪用の御札、『妖怪バスター』を繰り出す。
直撃、爆発。
紫色の火花を飛ばしながら白狼天狗が落ちていく。
「大丈夫なのか!?あれ!」
「次が来るわよ!」
シンの問いに答えず、霊夢が叫ぶ。
それと同時に残る2人の天狗が襲いかかる。
「こんのお!お前らなんかにぃ!」
奴らはシンを狙っている。その方が隙が大きいと向こうも考えているのだろう。
強風の空の中、白狼天狗は体の揺れを一切感じていないようだった。天狗のテリトリーと言われることはあるということか。
「うおおおおッ!!!」
今度は相手が振り下ろす前に天狗の体に叩きつける。
桃色の光を浴びた天狗は、鈍器で叩きつけられたようにバランスを崩し、失速してゆく。
――よし、墜落はしていないな。
シンは失速した天狗をみて、安心する。
刹那、残る1匹がこちらに向かってくる。
「ハッ!」
霊夢が急に横に移動する。
シンがもといた場所に振り向くと、白狼天狗の持つ巨大な剣が空を斬っていた。
「シン!あれは白狼天狗の椛よ!油断しないで!」
恐らく、いままでの奴とは違うのだろう。霊夢が態々言うぐらいなのだから。
シンは眼で応答すると、天狗の方に向きなおす。
頂上まではまだ遠い。
しばらくの付き合いになることはシンにも予想が出来ていた。
「やああああっ!」
接近してくる。
シンはエッジで防御をする。
衝撃。
霊夢とシンの体が大きく揺れる。
間髪をいれずに椛と言われた天狗が何かを放ってくる。
「ビーム!?」
シンがそう思うのも無理はない。シンの常識では人型が光を放つことなど無いのだから。
無数の光弾がシンに接近してくる。
「うわあああっ!」
直撃。
大きな痛みと痺れがシンを襲う。
霊夢にも当たっていると思うが、確認している暇がない。次が来る。
「これで終わりね!赤いの!」
椛が剣を振り下ろそうとしている。次が当たったら恐らく落ちる。
最低でも、俺は落ちてしまうだろう。シンはそう悟った。
「こんなところでっ!」
シンは椛の剣をにらめつける。
椛がゼロ距離まで近づく。
「こんなところで終わるだなんてッ!俺は!」
シンの中で何かが弾けた。
眼から膜が剥がれ落ちるように、視界が鮮明になる。
感覚が研ぎ澄まされ、体に当たる風の一つ一つが手に取れるように感じる。
S.E.E.D。優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子がシンの中で発現した。
剣が振り下ろされる。シンはそれをエッジで受け止め、斬り払う。
「―――クッ!」
椛がバランスを崩す。今のシンはそれを見逃さなかった。
「ガラ空きだあっ!」
エッジの刃を弱める。刀身が半分位まで縮めた所で椛にエッジを投擲する。
命中。
椛は失速しながら、下に消えていく。
シンはエッジを椛の手に当てた。得物が無くなった以上、勝敗は決した。
シンは椛が追ってこないのを確認した後、エッジがブーメランのように戻ってくる。
にとりが作ったフラッシュエッジのレプリカはデスティニーの『フラッシュエッジ2』とほぼ挙動が同じでかなり精巧に再現されていた。
シンはエッジを手に取ると、手を繋いでいる霊夢に呼びかける。
「霊夢!大丈夫か!」
「ええ、なんとか…」
霊夢はシンを見る。
―――やはり、只者じゃない。
霊夢の直感は再び強く囁いていた。
「もうすぐ、頂上よ」
霊夢は我に返り、シンに問いかける。目標の守矢神社まであと少し。
「ハアッ、ハアッ」
鮮明だった感覚が元に戻る。
過去にMSで危機に陥った時と同じ感覚。
最後に感じたのは、月面でアスランと戦った時以来。
だがあの時より、この感覚が身近に感じるようになっている。
―――もしかして、使いこなせるようになっているのか。
シンはそう思うと、エッジのスイッチを切る。
山の頂上はすぐそこだった。


「着いたわよ」
そう言い、霊夢とシンは地面に降り立つ。
そこは、博麗神社とは似て非なる場所。
神々しく神秘的な雰囲気は似ているが、空気が違うとシンは察した。
その空気は、この世界とはまた違った感じがする。
―――此処だけ、別の世界の様だ。
辺りの境内を見回し、実感する。
「目当ての人はあれじゃないかしら?シン」
霊夢が本宮の方を向き、顎で指す。
そこに、人が見えた。
霊夢とは対照的な青と白の涼やかな色合いでまとめられた装束。
霊夢と同様に肩と腋の部分を露出させた独特な服装は霊夢に負けず劣らずの強い印象をシンに与える。
若葉色の長い髪は知的なイメージを齎し、その髪には蛙と蛇の髪飾りがつけられている。
「あれが此処、守矢の神社の風祝。東風谷早苗よ」
「あれが…」
早苗と言われた人物がこちらに気付く。
早苗の瞳がこちらを捉える。
シンは彼女を見て真っ先に感じたものがあった。
それは、『気』だった。
此処、幻想郷の人とも、C.Eの人とも違う、もっと別の感じ。
シンはそれを強く感じ取った。
「あ、こんにちは!霊夢さん!えーと、もう1人はどちら様でしょうか?」
それは、一つの運命の出会いだった。
皮肉にも運命を嫌う者と、運命を切り開く者の。
「聞いているわよ?自己紹介なさいな」
霊夢がシンの肩を小突く。
分かってますよ!シンはそう答え。早苗の方を向く。
「俺はシン・アスカ。えっと、よろしくな」
早苗がこちらこそ。と答え、手を伸ばしてくる。
既視感。かつて、同じように手を伸ばしてくる人物の影を思い出す。
――俺は。
――俺はもう誰にも。
シンはその手を取り、握手を交わす。
これも運命なのだろうか。
この出会いが後々の事に関わることは、
まだ、誰も知る由が無かった。


PHASE- 04  切り拓く者、流される者


「お茶を入れました。良ければ召し上がって下さい」
「頂くわ」
「ありがとう。頂きます」
3人は守矢神社近くの和室にいる。そこで風祝の少女、東風谷早苗の勧めで茶を飲んでいた。
彼女の話によると自家製らしく、霊夢もシンもその味に舌を巻く。
「お茶か…こういうのは最近飲んでなかったな」
「おかわりなら幾らでもありますよ。どうぞゆっくりとしてくださいね」
シンが言うと、早苗が告げる。
早苗が入れた抹茶は独特の爽やかな苦味と、微量の砂糖の甘みが合わさってとても美味しい。シンは心からそう思った。
恐らく霊夢も同じ感想のはず。そう思いシンは霊夢の顔を見てみると、霊夢は表情を崩さずに飲んでいる。
しかし、少なくとも不味いとは思っていない様で、出されたお茶を丁寧に口に入れていた。
「さて、一息落ち着いたところで聞きたいのですが」
霊夢がその声を聞き、茶を置く。
話は本題に入ろうとしていた。
「2人はどういったご用件ですか?何か異変でも起ころうとしているのですか?」
「異変…の予感はするけど、今回は別件よ。この子が貴方に協力を求めているのよ」
そう、苦労して此処にきた理由は1つ。
シンのデスティニーの修理に必要な核エネルギー。
それを求めて2人は妖怪の山を登って来たのだ。
「ええ、俺の機体が今壊れてて…早苗さんでしたっけ?何か教えてくれませんか?」
シンも茶を置き、早苗に聞く。早苗はシンをみて穏やかな表情で、
「そんな固くなさらずに、シンさん。見たところ同い年ぐらいだと思いますが?17歳ぐらいでしょう?」
早苗はそういうが、そのいかにも『和』な雰囲気にシンは流されてつい敬語を使ってしまっていた。
「あ、ああ…まだこういう雰囲気に慣れてなくって」
一目見たときは普通に話しかけられていたが、いざこういう改まった雰囲気になると軍人ゆえにシンは下手な敬語を使う。
軍人というものは、時に不便というものが、シンにもよく分かっていた。
「霊夢さんも。シンさんはまだこの世界に慣れていないんですから、優しく教えてあげればいいじゃないですか?」
「そうは言うけどね、早苗。此処まで連れてきただけでも私は優しいと思うわよ」
「もう、霊夢さんったら」
楽しげに―――シンの主観で思ったことだが―――2人が喋る。シンはそれを横から見ているしかなかった。
「で、結局俺の機体のエネルギーはどうやったら確保出来るんだ?」
会話が一段落着いたところで早苗に聞く。早苗は人差し指を顔に当てて、
「そうですね…神奈子様も諏訪子様も今はいませんし、どの道あのエネルギーを今すぐ作れと言っても時間かかりますし、あそこに行くしかありませんね」
「やはり、地底界へ行かなきゃ無理なのかしらね」
霊夢が茶を飲む。
「どういうことなんだ?地底界とか、神奈子様とか諏訪子様とか」
「この世界の下には地底界というのがあります。そこに貴方の機体を持って行って直すということです。神奈子様と諏訪子様は私の神社の神様の名前なんですよ」
「そうときまれば、私は一旦戻るわ。異変の調査をしてくるから、早苗あとよろしく」
霊夢はそういうと、玄関の方に向く。シンは霊夢の背中をみると、こう告げた。
「霊夢さん!」
「なあに?」
「いや、此処まで連れてくれて……ありがとう。と、言いたかったんですよ」
シンが途中まで言ったところで急に緊張しながら言う。
やはり、敬語は慣れない。
柄にもなく顔を赤くしながらシンはそう思う。
「例には及ばないわ。私は博麗の巫女だから」
霊夢はそう言い、部屋を出る。
後に残ったのは、シンと早苗だけだった。
―――此処へ来てから、やたら女の子と一緒になる。
シンはそう心の中で喋りながら早苗の方へ向く。
彼女は微笑みながらシンと視線を合わす。
―――暫くの付き合いになりそうだ。
シンは無意識にそう感じた。

シンと早苗は部屋にいる。
目的は決まったが、早苗が焦らずにゆっくりしてくださいと言ったからだ。
それに、シン1人ではこの山の断崖絶壁を下ることが出来ない。
つくづくシンはこの世界は不便だなと思う。
だが、嫌いには不思議と思わなかった。
C.Eで失われたものが此処にはある。
シンにはそう思えた。
「そういえば、シンさんはどちらから来られたのですか?外の世界でしょう?」
早苗が眼を輝かせながらシンに問う。
「えっと…プラントっていう所なんだけど」
シンはそう告げる。あながち間違ってはいないし、“プラント”はシンの世界じゃ有名所だ。同じ世界の人なら知らない人は殆どいない。シンはそう思っていた。
しかし、帰って来た返事は予想とは違っていた。
「プラント?工業かなにかの名称ですか?」
―――それはシンに初めてされた返答だった。“プラント”を聞いて知らない人はC.Eにはまずいない。
もしかして、C.Eの人じゃない?
シンは聞く。
「そういや早苗。君はどこからの人なんだ?霊夢さんから聞いたけど幻想郷の生まれじゃないんだろ?」
早苗はそれを聞かれた時、一瞬、ほんの一瞬だけ暗い表情をした。
そして、答える。
「…私は、日本ってところから来ました。日本って言っても、この世界とは違う世界。即ち、“外の世界”からきたんです。幻想郷からしたら、私も外来人です」
それをきいて、シンの中に疑問が生まれる。
霊夢は外の世界から外来人が来ると言っていた。
つまり、早苗みたいな人がいくらかこの世界に来るということなのだろう。
しかし、霊夢は。
「聞いた限りだと今までに聞いたことが無いことだらけね」
と言っていた。
にとりも、シンみたいなケースは初めてと言う。
―――やはり、俺は。
―――早苗の世界、“外の世界”とも、幻想郷とも違う世界から来たのか?
「どうしたのですか?顔色が悪いですよ?」
気付かなかった。
いつの間にか早苗がシンの隣にいて、シンの額に手を当てている。
意識がはっきりとしたシンは、顔が赤くなる。
「な、なにすんだよ」
「え?なにって、熱でもあるのかなと思って」
「いきなり近づいてきてきたらびっくりするじゃないか!」
「なんですか~急に照れちゃって。シンさんったら結構照れ屋なんですね」
「そういう問題じゃないだろ!?」
シンが飛びずさり、早苗は笑う。
さっきまで暗い感じになっていたのが嘘みたいだ。
「シンさんって、女の子に弱いんですね」
早苗がからからっと笑う。シンはどう思っても、彼女に遊ばれているようだった。
「…君は、さっきと感じが違うくないか?」
「そんなことありませんよ~シンさんをリラックスさせようとしたんですよ。外の世界から来たら誰だって混乱しますからね」
実際そうなのかもしれない。
だが、いきなり気付かないうちに急接近されたらシンも戸惑う。
―――別に、早苗が嫌いって印象を抱いてはいないが。
「シンさんの世界には、待っている人はいるのですか?」
「待っている人…か」
シンはそう聞かれ、考える。
大戦の戦友、ヴィーノ、ヨウラン、ルナマリア。
次々と仲間の顔を思い出す。
だけど、戦争が一旦終結した直後、皆それぞれの道に分かれていった。
ルナマリアとはアカデミー時代から仲が良い。戦争が終わってからも時々ともに外食したりする。長い付き合いの親友だ。
幸い、恋人と呼べるような関係の人はシンにはいなかった。
プラントに帰ることに焦っていないのはそのことが大きいのかも知れない。
「いない…かな。俺は身寄りもないし、兵士として淡々と任務をこなすことしか無かったから」
『いない』と言うことは実際には嘘になるかもしれない。だが、本当のところを言ったところで、状況はかわらないし、向こうとも最近は会うことも少なめだ。
1人が好きという訳でもないが、下手なことを口走って早苗に余計な負担はかけたくない。
シンは優しさからそう判断した。
「そうなのですか…私と同じなのですね」
「同じ?」
「ええ。私は自分の意思でこの世界に来たんです」
早苗は続ける。
「ですが、親には早く先立たれ、神社を1人で護って来たんです。生活には困りませんでしたが、頼る人もいないし、人は私を避ける。…あまり気分のいい日々ではありませんでした」
「避ける?」
「ええ。私の家系は“奇跡を起こす程度の能力”を持っているのです。それで周りの方は私を避けてたんですよ。化け物だのなんだのって」
「そんな …ことって」
「守矢の血ゆえに、風祝の職業は運命付けられたことだったんです。…私も初めは嫌でした。ですが、此処に来た時にいろいろと吹っ切れて楽になったんです。私だけが特別な力を持っているわけでもない、全てを受け入れてくれる所ですから。…来た際に誰かさんに喧嘩売っちゃって痛い目に逢いましたけどね」
「運命…」
「シンさんは運命についてどう思いますか?私は、変わらない運命ははっきりいって嫌です。たまたま幻想郷に行けれなかったらきっと私の運命は変わらなかったと思います…」
シンは戸惑う。運命。それは彼を縛り付けている言葉だった。
そして、嘗て護ろうとした世界のための計画。デュランダル議長が目論んだ計画。デスティニープランと深く関わっている言葉だった。
人の遺伝子を解析し、生まれながらに人の生きてゆく道を決める政策。
それによって、人は生きることに迷うことなく、理論上の最高の生き方が出来る。
同時に、コーディネイター、ナチュラル。両方の争いの基を根絶し、人々は争うことなく、いや、争いをすることを無駄と刷り込まれ生きてゆく。
それは、徹底的に管理された世界のことだった。
シンはその計画を聞いたときは迷った。人の生き方を縛り、自由を奪われる。それに気付いた時はすでに遅かった。
重ねていうと、シンはザフト軍に頼れる人がいない八方塞がりの状況だった。アスランもハイネもすでにザフトからは消え、誰とも相談できることは叶わなかった。
親友のレイは議長に心酔し、クローンであることを告げられたときにはシンの精神はすでに限界を超えていた。
結果、迷いながらオーブ軍と戦い、レイとタリア艦長と議長は行方不明になりシンはアスランに敗北したのだった。
何もかも失った。
戦争で、全てを。
「シンさん…」
早苗が悲しげな顔でこちらを見てくる。頭の中で考えていたことが知らず知らず表情に出してしまったのだろう。
早苗の眼を見る。
若葉の様に瑞々しいその眼は、暗く濡れているようだった。
目を離せばどこか見ないところで壊れてしまいそうなくらい。
―――俺の、答えは。
「俺は、戦いの毎日でいろんな人に出会った、戦友や上司、護りたい人や失った人に」
「護りたい人を殺された時は、怒りと憎しみで戦っていた。戦場を引っ掻きまわすやつを倒そうと必死で努力した」
「でも、憎しみで戦った後は何も残らなくて」
「頭の中が空っぽになった時にある人が、今の機体…デスティニーを俺にくれたんだ」
「それからは、戦争を無くそうとデスティニーで戦った。どんなに苦しくても、どんなに痛くても早く全てを終わらせるために戦った。正直、早く休みたくて仕方なかった」
「シ…ン…さん」
「運命なんてものはその時の俺には分からなかった。俺が自分の道を進むことなんかその時の俺は考えることが出来なかったんだ」
「そして、俺は負けた。でもその時気付いたんだ。“俺はまだ生きている”って」
「生きている限り、明日はやってくる。だから俺は…誰かに望まれた生き方より、自分の信じた事を選んだ。誰に何を言われようと、俺は俺だから!」
「だから…だから俺は運命を切り拓く!」
―――そう決めたから。最後にそう言うと一心に聞いていた早苗が、
「…私たちって、案外似ていますね」
「え…?」
「親を亡くして、何かにすがらなければ、生きていけなかった時があって、流されるままに生きていて」
「でも、今頃になって気付いちゃって。シンさんも大変だったんですね」
「いや、俺は…」
「シンさんみたいな人は初めてです。私にはシンさんみたいに強い意志なんか無かった。ただ、逃げていたんです」
「でも、シンさんのお陰で少し自信が出来ました。私に出来ることなら、シンさんの機体の修理手伝わせて下さい!」
さっきまでとは違う、眩いばかりに輝く早苗の瞳。
シンは決して自己満足のために早苗に語ったわけじゃない。
だけど、自分に出来ることなら多くの人に力を与えていきたい。
シンは心からそう願った。

妖怪の山の上の断崖絶壁。
日は沈みかけ、辺りは紅く染まっている。
シンは早苗と話した後、少し1人になりたいと言って外に出た。
どの道、夜が近づいていたので今日中に下山することなど無理な話だ。
シンはゆっくりと近くの岩に座って太陽に向く。
争いのない世界。平和な世界。
日々誰かが流れ弾で死ぬわけでもなく、のんびりと平和に浸かれる世界。
シンにとって幻想郷はそういう所だった。
「俺が目指していたのはこういう所なのかな…」
マユ、ステラ、レイ。
出来れば皆こういう世界で暮らしてほしかった。
そして自分。
「もしかしたら、俺って」
深呼吸して声に出す。
「帰る必要なんてないのかも…しれないな」
戦争が続く狂気の世界。
シン自体、あの世界は好きと言えるものではない。
「だけど、俺が、俺達がいないと」
自身が経験した辛い経験。
そんなことがもう二度と起こらない為に
もう二度と自分達のような悲しい子供が生まれない為に。
そんな争いの無い、平和で暖かい世界。
「やっぱり、俺は戻らなくちゃ」
あの世界から戦争を無くすために。
その決意はまだ彼の中で燃え盛っていた。
「あらら…こちらにいらっしゃったのですか」
背後から声がする。早苗だ。
「どうしたんだ?」
「ちょっと心配…というより、気まぐれと言いますか…」
早苗は顔を赤くしながら口ごもる。シンにはその理由が分からなかった。
「ああ、そう!明日山を下りるからそのことで話したくて!」
「そっか、俺1人じゃ降りれないからか。早苗の手助けが無いと…っていうのは自分でもちょっとかっこ悪いな」
「まあ、ちょっと来てみたんですよ。シンさんが何しているのかなって」
早苗が隣に座る。山の上で女の子と2人で並んで座るなんてシンにはまったく経験が無い。
だからといって、どうこうと言うでもないのだが。
「明日地底界行くときには、シンさんの機体も持っていかなきゃいけません。シンさんの機体とやらはまだ、動くのですか?」
「とりあえず、動くことは出来ると思う。核動力がおちているから、残りの電力だけで動かさなきゃならないけど」
「じゃあ、明日はそこまで取りに行きましょう。どこに預けているのですか?」
早苗がシンを見ながら聞く、
「にとりっていう友達に預けてる。たしかこの山の麓近くだ」
「にとりさん…ですか?」
「知っているのか?」
「知っているも何も、此処に来た時からよくお世話になってます。電気やら機械やらなんでも分かる河童さんですから」
「あの娘…そんなに凄かったのか…」
シンは深く感心する。MSと電化製品等じゃ技術のレベルが桁違いだが、早苗の話によると、かなりの機械分野のエキスパートらしい。
にとりと出会わなかったら、俺は終わっていたかもな―――
シンはしみじみと感じる。
「もう夜になりますし、夕ご飯でもどうですか?たまたま少し多めに作っちゃいましたし…」
口ではそういう早苗だが、態度はどう見ても照れ隠しにもなっていない。
おそらく、“たまたま”も信じがたいだろう。
だが、シン自体もちょうど空腹だった。だから、
「早苗。俺もちょうどお腹減ったからいいか?」
と答える。
元の世界に帰れる術はある。
焦ったって仕方ないんだ。
今は今、経験できることをしっかりと身に刻んでおこう。
シンはそう思い、早苗とともに神社に戻った。

翌日、朝。
シンは借りていた部屋からでて、神社の前に立つ。
早苗はまだ準備をしているらしく、姿を見ていない。
昨日の夜のことだが、早苗曰く“女の子は準備が長い”ものらしい。シン自体にはさっぱり分からないことだが。
シン自身は洗顔、身支度、そしてにとりが作ったフラッシュエッジをポケットに忍ばせるだけで済んだから尚更かもしれない。
「お待たせしました!」
神社の扉から声が聞こえる。
振り向くと、
白地に青の縁取りがされた上着と、
水玉や御幣のような模様の書かれた青いスカート。
胸にはペンダントの様なものを付け、薄緑色の靴。
手に持っているのは霊夢とは異なる形の札を挟んだような御払い棒。
ロングヘアーの髪は左側を一房髪留めでまとめ、前に垂らしている。
「シンさんとのお出かけですからねっ!ちょっとお洒落してみました。そ…その、似合いますか?」
早苗が近づきながら聞いてくる。シンはあまりファッションには詳しくない。だから、簡単な感想を言おうと考えた。
じっくり早苗の姿をみたあと、シンは告げる。
「綺麗だな…」
心からでた言葉だ。それに幻想郷独特の服に関しては評価の仕方がシンには全く分からない。
だから、シンは頭の中に浮かんだセリフを言い放った。
「き、綺麗ですか!?そんな風に言われたの初めてです!」
「ああ、綺麗だな」
「二度も言うんですか!?」
早苗はシンの言葉に激しく反応しているようだった。
その顔は赤く、シンから視線を離す。
「シ、シンさんったら」
小声で早苗は言う。早苗自身はあまり男性と関わったことはない。
だが、シンの言葉で急に意識をし始める。
よくよく考えればシンにたいして今までやったことは結構破廉恥なことではないのか?
早苗は昨日のことを不意に思い出し顔をさらに赤く染める。
体中の血液が沸騰しそうな感じだった。
「さあ、にとりのところまで行くぞ。早苗、頼む」
「は…はいっ!奇跡「神の風」!」
早苗がそう唱えると、シンの体が風で浮く。
初めての感覚にシンは戸惑う。
「な、なんだよこれ」
「神風で貴方の体を浮くようにしたんです。これで私とそ、そのっ手を繋いだら…飛べますよ?」
そう言い、宙に浮いた早苗が手を伸ばしてくる。シンもその手に届くように手を伸ばす。
―――ホント、女の子にお世話になりっぱなしだな。
シンはそう思いながら、早苗の手をしっかり握る。
神の風のお陰で霊夢の時よりは引っ張られる感覚はない。正直言ってこっちの方が心地いいくらいだった。
「私から離れないでくださいね。離れると神の風の効力が切れます」
「了解、早苗に任せる」
早苗が笑顔で振り向く。シンもつられて笑顔で応答する。
眼下には、妖怪の山の麓。
そして、やや南東の方角ににとりの作業場がある。
―――さっき別れたばかりなのに、こんなに早く戻るなんて。
こればかりはシンにも予想できていなかった。
跳躍。
彼女が空を蹴り、早苗とシンはデスティニーの待つ場所に飛んで行った。