PHASE- 11 人と神


「あ、空が見えてきましたよ!」
早苗が快活に言う。コクピットのモニターには、一点から差し込む光が映し出されている。
そして、モニターの全てが光に包まれる。
青い空。白い雲。眩いばかりの太陽の光が照らしつけてくる。
見渡す限りの“地上”の空だ。
「地上に…幻想郷に帰って来たのですね…」
「そうだな…早苗」
彼女、東風谷早苗がシンの肩に掴まりながら、感慨深げに囁いてくる。
それを聞いた彼、シン・アスカも安堵の表情を浮かべながら返答する。
「どうする?このまま一旦、にとりの所まで行くか?」
「その前に寄りたいところがあるのですが…いいですか?シン」
シンが確認の為に問うと、早苗が一つの提案を出してきた。
「あの…折角ですから、私の神社にもう一回来て下さいませんか?」
「どうしたんだ?」
「いや…あの…」
早苗が顔を赤くしながら自らの服を指さす。
“フリーダム”の戦闘の際に、彼女の服は傷んでしまい、御世辞にも綺麗な状態では無かったのだ。
シンはそれを察して、
「ああ…そういうことか。ゴメンな」
「あ、いえっ」
シンはモニターの方に向き直す。操縦桿を動かし、遠くに大きく聳える“妖怪の山”に進路を向ける。
推進系のスロットルを上げてゆく。シンと早苗を乗せた“デスティニー”は紅い翼を広げ、山の方に飛翔していった。

昇降用ワイヤーに掴まりながら、シンは機体から降りる。
早苗は直接飛翔して、先に地面に降り立っていた。
「しっかし、便利だよな。早苗たちは」
「ん?」
「そんな風に飛べたら、いろんな所へ行けそうで羨ましいよ」
シンは早苗を見て言う。勿論、その理由は早苗達が有する、単体での“飛翔”の事だ。
古来より、人は空を飛ぶことを夢見てきていた。
だが、科学の進んだシンの世界、コズミック・イラでも未だ、機械に頼らずに、人類を空に飛ばす様な技術は存在しない。
シン自身は、空を飛ぶこと自体は嫌いじゃない。むしろ、アカデミーで初めてMSで空を飛んだときは、感動と興奮に心が包まれた。
しかし、霊夢や早苗に連れられて飛んだ時も、新しい感動と感覚があった。
シンは羨んだのはそこからだ。
「そんなに、過大評価するほどでもないですよ。シン。霊力は使いますし、寒い時は苦難ですし」
早苗が応える。当人からしたら慣れてしまった分、批評の事が目立って感じられるのだろう。
「それに…ガンダムで飛ぶ方が…私は好きですよ。…貴方と一緒にいれますから…」
「そっか…人それぞれだものな」
シンは早苗の感想に答える。彼女の後半のセリフは良く聞き取れなかったが、恥ずかしそうな素振りから、敢えて気にしないことにした。
早苗とシンは本殿の方に歩みを向ける。
以前来た時と同じ、和風の立派な建物だ。
しかし、そこで以前は見なかったものをシンは見かける。
それは、女の子の背中だ。正確には、以前見なかった娘と言うべきか。
青と白を基調とした、独特の服装。
シンが昔習った日本の知識では、確かあれは壺装束という代物だったか。
脚には白い二―ソックスを履いており、小さい頭に被っているのは、まるで蛙を連想させる大きい目玉が二つ付いた市女笠。
市女笠から覗く、陽の光で輝く髪は、ショートボブの金髪だ。
シンは早苗に聞く。
「なあ、早苗」
「なんですか?」
「あの娘、もしかしてこの神社に居る娘?早苗の妹とか?」
シンが顔を動かして、向いている方に彼女の注意を促す。
こちらの会話が聞こえたのか、金髪の女の子がこちらを向いて口を開く。声が高く、独特の響きの少女の声だ。
「―――?早苗か。って!?」
こちらを向くなり、驚愕の表情を見せる。それと同時に、
「え、諏訪子様!?帰っていらっしゃったのですか?」
早苗の方も彼女を見るなり、大きな声を出す。
「早苗が…早苗が…」
諏訪子様―――と呼ばれた少女が肩を震わせて俯いている。
「普段男に縁がない筈の早苗が…男の子を連れている!?」
少女があからさまに驚いた顔で大声を出す。
「女将をよべーい!」
「何を言っているのですか!?諏訪子様!」
シンを見るなり、少女は半ばパニック状態で神社の中に走りだす。
早苗もそれを追いかけようと、走りだす。
その場に残されたシンは、
「何を言っているんだ……?」
理由も分からずに、首を傾げていた。


「紹介します、諏訪子様、神奈子様」
守矢神社の中の客間。
今、シンと早苗は机を挟む形で、守矢の二柱の神様と向かい合っている。
片方は先程の少女。だが、もう片方は、赤い装束を纏い、背に輪状の太い縄を背負っている女性。
胸元に輝くのは、この神社の秘宝と呼ばれる真澄の鏡が収まっている。
早苗によると、自らの力と蛇を同時に連想させる注連縄という物とシンは聞いた。
厳格な表情と、身長の高さからの威圧感は凄まじいものがある。シンは無意識に表情が強張った。
「彼の名前はシン・アスカ。私達とは別の世界からやってきた、外来人です」
「えっと、初めまして。シン・アスカで…あります」
「ほう…」
神奈子が鋭い目でシンを睨みつける。
シンは不思議と眼を背けない様に、視線を同じく神奈子の方に注視した。
睨み合いが続いて約一分。
漸く、神奈子が口を開いた。
「…合格」
「「「…え?」」」
シン、早苗、諏訪子が口を揃えて疑問の意を浮かべる。
早苗は神奈子に問う。
「何が合格なのですか?」
「勿論、この少年の見た目や、心の中を覗いていたのさ。早苗、お前って奴は…良くやってくれた」
唐突に、神奈子が誇らしげな表情を浮かべて首を縦に振る。
続けて、言葉を紡ぐ。
「これで、守矢神社の時期神主は心配せずに済むね」
一瞬訳が分からなくなる、早苗とシン。
シンに至っては、彼女が何を言っているのかさえ理解できなかった。
しかし、早苗の方は意味が分かったらしく。
「――――えぇ!?何を言っているのですか?」
焦りながら、机を叩いて怒鳴っていた。
シンの方は訳が分からないことは勿論、発言する言葉もタイミングも見つからなかった。
神奈子は愉快そうな表情で早苗の肩を叩く。
「いや、まさかとは思ったが、早苗の初めて連れて来た少年がこうも大当たりとはねぇ…いやはや、センスがあるぞ、早苗」
「何を!?神奈子様!?」
「こんな美少年の婿を連れてくるなんてね…流石私の…」
「諏訪子様まで!??」
普段はお淑やかな早苗が、こうも取り乱している。
シンはその愉快そうな光景を唖然とした表情で見ていた。
「…もう!諏訪子様も神奈子様も!何でこんな!」
早苗が膨れっ面で怒気を表している。
二柱の神もからかうのをやめたあたりで、シンが口を出す。
「えーと…何が何だか、軽くパニックなんだけど…」
「どうした?少年」
「貴方達が…早苗の言ってた、神様…ですか?」
恐る恐る聞く。神様と言うものをシンはあまり信じていない。
イメージ通りの存在ならば、強力な力を有している驚異的な存在のはずだと、シンは意識しながら問う。
「そう、固くなるな、少年。いや…シンと言うべきか。私は、八坂加奈子。この神社の神であり、この幻想郷では、早苗の保護者みたいなものだ。私達は君を歓迎しよう。シン君」
雄大な雰囲気を醸し出しながら、神奈子が自己紹介する。
「私の方からもね。私は洩矢諏訪子。詳しいこと言うと色々気難しくなるから省くけど、神奈子と同じここの神さ」
続けて、諏訪子が自己紹介をする。
「私達は先日までとある河童のアドバルーンの作成に手を貸していてね。それで諏訪子共々、神社を空けていたということさ」
「早苗に黙って行っていたからね~」
神奈子が空けていた神社の事に関しての説明をする。
「しかし、動力源とかの問題はクリアしたんだがね、肝心の見た目がまだ決まらないんだよ。
神奈子が残念そうに溜息をつく。そこでシンの方を向いて、
「そこでだ、シン君。早苗の目利きに折り入って聞きたいのだが、格好がつく様な巨大ロボットの見た目を思いつかないかね?」
再び神奈子が眼を細めながらシンの方に向く。
シンは緊張しながら、見た目が良さそうなシルエットを思い浮かべる。
「えーと、自分が…ですか?」
「そうだ、現物があると尚良い」
シンの知り尽くしているMSから印象深く派手な物を頭の中から探してゆく。
―――ジン…ダメだ。灰色は地味だし、MSの中じゃまださっぱりしている方だ。
―――バクゥ…あれは犬型だし、意外性はあっても、ロボットって感じはしない。
―――インパルス…は原理的に不可能だ。
シンは頭を抱える。
そこで、隣の早苗が口を開く。
「神奈子様、ならば見て欲しい物があるのですが…」
「何だい、早苗」
「とりあえず、外へ。シンは、“デスティニー”に乗り込んでください」
早苗の勧めで全員外に出ようと動く、その最中諏訪子は、
「早苗が呼び捨てで呼んでる…こりゃ…相当だ…」
と、静かに驚愕していた。
「おおおお……!」
神奈子の瞳に飛び込んできた景色に、シンの“デスティニー”が聳え立つ。
背中にある翼に鋭角的なフォルム。
運命の守護神となるべく、ザフトによって建造されたMSの姿は、神奈子の内心を歓喜で満たしていった。
「これは…名をなんというんだ、早苗」
「“デスティニーガンダム”。シンと私で直した、最強の機体ですよ」
早苗が神奈子に語っている間、シンは早苗の指示でコクピットに入っていた。
「しかも、神奈子様。このロボットはもっとカッコ良くなるのですよ。…シン!起動させてください!!」
早苗がシンの方に大声で指示を出す。それを聞いて、シンはVPSを作動させる。
装甲の分子配列の切り替えにより、“デスティニー”のメタリックグレーの装甲が赤・青・白の派手なトリコロールに変化してゆく。
戦闘の時だけ見せる、“デスティニー”の真の姿だ。
「まだまだ、ありますよ!シン!翼を広げて下さい!」
「わかった!」
“デスティニー”の翼状のバインダーが全開になる。そして、ヴォワチュール・リュミエールを最小限で起動させる。
機体の全長の何倍もある翼が辺りに広がり、光の粒子を散らしてゆく。
ミラージュコロイドの影響で、“デスティニー”は白く、輝きを増していた。
「ううおおおっ…!」
「凄い…!」
諏訪子、神奈子が同様に驚く。
「シン!ちょっと、飛んでみてください!」
「はいはい…」
スラスターを操作して、早苗に支持された通りの曲芸飛行をする。
ミラージュコロイドの分身を出しつつ、空中で一回転、二回転。“フリーダム”の戦いの時にもやった、宙返りも披露する。
シン自身も、わざと見栄えが良くなるように、ミラージュコロイドの粒子を多めに出すように設定しておいた。
「なんて事だ…早苗は何て少年を連れて来たんだ…!」
「シン!手を光らせてください!手を!」
神奈子はその姿に感動し、早苗と諏訪子は大喜びをしている。
シンはそれを眺めながら、空に向かって“パルマフィオキーナ”を作動させる。
「完璧だ…ありとあらゆるものまで…!!!!」
神奈子が涙を一粒流す。
望んでいた物が、そこにあったからだ。
「シン!降りてきて!」
「ああ…分かった」
呆れながら、シンは機体を地上に下ろす。
コクピットから降りると、早苗が抱きついてきた。
「うわああっ」
「いい印象でしたよ!シン!」
シンは両手で受け止める。
そして、神奈子がこちらに近づいて、シンに言う。
「君のお陰で、非想天則の見た目が決まったよ。シン君。いやはや、君は本当に我々が望んでいた逸材だ!」
「これで将来も安泰だね!」
諏訪子も、元気に言う。
「マジですか…ありがとうございます」
二人に気圧され、シンは軽く礼をする。
早苗は依然、シンに抱きついたままだ。
「しかし…あと一つ知りたいことがある」
「なんですか?」
「簡単な事だ。早苗の婿になる以上、簡単に妖怪に殺されては困る。そこで、“決闘”で君自身の力を見てみたい。私では話にならないから諏訪子、お前がやるんだ」
「わかったよ、神奈子」
場所を本殿に移そう。と諏訪子が言って、守矢の三人が歩いていく。
シンは呆然としながら、
「なんで…いつの間にか、早苗の婿の話になっているんだ…!?」
状況を理解できずに、ついていった。
「なぁに、簡単さ。私に一発加えたらいいんだよ」
「ハァ…」
諏訪子とシンが本殿の前の庭で対峙する。
今回は早苗の助けは無しだ。と、神奈子に言われて早苗は神奈子の隣にいる。
「さあ、行くよ!神具『洩矢の鉄の輪』」
諏訪子が宣言して、手に文字通りの鉄の輪を取り出す。
輪の先端は刃で鋭く、簡単に人が持てるような物では無さそうだ。
「シン!良くわかんないけど、頑張って下さい!」
「シン君。やってみなさい!」
「えぇ~!?あたしへの声援はなし!?」
「いや…俺の方も良くわかんないんだけど…」
言いつつ、シンは二つのスケールダウンされたフラッシュエッジを取り出す。
「それ。なんていうの?シン」
諏訪子がエッジを見てシンに告げる。
「えっと、原型のヤツはフラッシュエッジっていいますけど」
「じゃあ、この機会にちょっと宣言して見せてよ。名前付けてさ」
「ええ!?」
シンは相手のペースについていけずに返答する。
―――とりあえず、適当な名前!
素早く名前を考えて、シンは宣言する。
「え…っと!『フラッシュエッジ』!」
「はい、良く出来ました~!」
シンが叫ぶなり、諏訪子は笑顔で拍手する。一方のシンは恥ずかしさから赤面していた。
「シンって…叫ぶとカッコいい声ですね…!」
「ち、ちがうからな!?」
「シン君!似合ってるよ!」
「神奈子さんまで!??あーもう!こうなりゃヤケだ!」
恥ずかしさを振り切るように、エッジを構えて諏訪子の方に突進する。
「てええええいっ!」
「やあっ!」
双方、全力で得物を振り下ろす。
エッジ、輪に襲いかかる衝撃。
前へ前へと、力で押しあう。
「中々の腕だね。早苗が惚れ込むのも分かるよ、うんうん」
「はぁ!?」
「だけどね!本気を出すまでもない!」
諏訪子がエッジを押し返す。そして、体を大きく捻って投擲する。
鉄の輪はブーメランの様に、シンに飛んでゆく。
「くそう、飛び道具か!?」
寸前で横に跳んでかわす。しかし、輪はシンを追いかけてくる。
「そんなのありかよ!?」
「さあ、どうする~?」
シンは踏み止まり、自身を追いかけてくる輪に向き直す。
「シン!?」
早苗が身に起こる心配から叫ぶ。
シンはそれに応えるようにエッジを持つ両腕を振る。
「でええいっ!」
“デスティニー”の時と同じ要領でエッジを輪に投擲する。
行く手を阻まれた、鉄の輪はエッジの衝撃でその場に音を立てて落ちる。
刹那、シンは諏訪子に向かって全力で走る。
「くっ…!」
諏訪子は地面を蹴って後方に逃げようとする。だが、彼の迫りくる迫力で思うように動けない。
シンの右手が伸びてくる―――
「―――!?」
シンの右手が、彼女の頭ごと帽子に触れる。
痛覚を覚悟した諏訪子は思わず、両目を瞑る。
しかし、何時までたっても痛覚は来ない。
「え…?」
眼を開けると、シンが諏訪子の帽子を取って、彼女の頭にチョップをするように手を置いていた。
「ハァ…ハァ…えーと、これでいいか?神奈子さん」
「まあ、いいだろう。合格」
肩で呼吸しながらシンが問うと、神奈子が満足そうに首を振る。
諏訪子は心底悔しそうに、
「えーっ!ずるいよ~!ただ私の頭に手を置いただけじゃんか!」
「一回は一回だろ?それに、彼に接近されて一番表情が強張ってたのはお前だぞ」
神奈子との口喧嘩。その様子は、まるで母と娘がじゃれている様にシンには見えた。
「やりましたね、シン」
「俺は…疲れたよ…」
早苗がシンに駆けよって喜ぶ。
シンは近くの岩に座って彼女に返答した。
―――本当に、ここの人たちは楽しそうだな。
シンは彼女たちを見て思う。
深呼吸して、彼はその場に暫く居た。
「ふぅ…ようやく落ちつけるな…」
湯が自分の体によって波打つ。
あれから時間がたち、夜になったところでシンは二柱の神の計らいにより、守矢神社にある温泉に身を浸けていた。
「何て言うか…ここは平和だな。今日一日は滅茶苦茶疲れた感じはしたけど、風呂まで貸してもらえるなんて」
シンは今日一日中の行動を思い返して呟く。
今日背負った疲れも、湯に体を浸すと同時に流れていく様な感覚がシンを包んでいった。
堪らず、恍惚の表情を浮かべる。
丁度いい湯加減で、何時もの緊張の欠片もないぐらい、シンはリラックスしていた。
シンは、軍隊に所属していたこともあり、身を洗うときは何時もシャワーだった。
だが幻想郷で、以前にもここに来た時に風呂を使ったのだが、風呂はシャワーとは違って心まで洗われるような感覚がシンの好きなところだった。
「ははっ。ホント気持ちいいな…」
頭上の月を見ながら一人呟く。
コズミック・イラとは何一つ変わらない景色、その一つが月だった。
―――俺は、帰れるのかな?
月を見ていると、次々と仲間の顔を思い出す。
キラ、アスラン、ルナマリア、メイリン、ヨウラン、ヴィーノ。
自分だけ、見知らぬ土地に飛ばされてしまう。
言葉だけ考えると、かなり絶望的な響きだった。
「って。何ホームシックになってるんだ!俺!」
暗くなった心を振り払うように顔に湯を掛ける。
しかし、湯は流れても、己の心に渦巻く不安は流れなかった。
―――頭でも洗おう。
シンは体を起こし、風呂の縁の洗面器を取りに行こうとする。
すると、背後から扉の開く音がした。
迫りくる悪寒を感じ、跳び込む形で大きな水音を発しながら風呂に入る。
恐る恐る後ろを振り返ってみると、タオルを巻いた東風谷早苗の姿があった。
「えっ…あ、シン…?」
「うわああああぁ!?早苗か!?えっ!ていうか何で!」
シンは焦りと疑問に押し潰されそうになりながら眼を背ける。
早苗は今、薄く白いタオルしか巻いていなかった。
それに対し、シンには濡れたタオル。しかも、体に纏えるような代物ではない。
―――まさか。
シンはタオルを渡してくれた神奈子の顔を思い出す。
振り向きざまに一瞬見せた、にやけた面。
―――まんまと嵌められたのか!?俺は!?
シンは顔を押さえる。もちろん彼女の裸を眼にいれない為だ。
「早苗何でここに!?っていうか、知っててきたのか?」
「いや、神奈子様が、“入るなら今だ!”と私に言って来たので…まさか、貴方が居るなんて思わなかったです…」
顔を赤らめてはいるが、早苗は歩みを止めない。
そして、シンに近づいて囁く。
「折角ですし、一緒に風呂に入りませんか?」
言葉だけなら、平静を装ってるように思えるだろう。
だが、早苗は明らかに過度に緊張しながらシンに告げていた。
―――どうしてこうなったんだろう。
シンは軽く溜息をついて、考えた挙句。
「ああ…わかったよ」
と、そっぽを向いて短く返答した。
「は…はい。それじゃ」
シンの背後にまわる形で早苗が風呂に入る。
二人は背中合わせで湯に浸かっていた。
「温かいですね…」
「そうだな…」
「今日もお疲れ様でした、シン」
「ん・・・」
二人は静かに会話をする。
シンも早苗も顔を上気させていた。
「それにしても、さとりさんの時のシンの“デスティニー”の動きは凄かったですね」
早苗が急に話題を変える。
“デスティニー”が“フリーダム”に繰り出した、あの連続攻撃についての事だ。
「シンさんはあの技に何か呼び名でもあるのですか…?」
「いや、無い。あの時は無我夢中だったし」
シンは早苗の方を横目で見ながら答える。
それを聞いて早苗がシンの前に回り込みながら提案する。
「なら、私が名付けてあげます」
「君が…?」
早苗は顔を赤くさせながら満面の笑みを浮かべる。
「そうですね…全ての武器を繰り出す技……フル・ウエポン・コンビネーションなんてどうですか?」
「フル・ウエポン・コンビネーション…安直だけど、いい名前だな」
「やっぱり…気に入りませんか?なら、バーストアタックとかスペシャルアタックとか―――」
「いや、これが一番いい」
シンは次々出される早苗の提案を掃って告げる。
「よかった…シンに気に入ってもらえて嬉しいです」
うっとりした顔を早苗は浮かべる。
シンもそれを見て満足げに笑顔を浮かべた。
「シン…風呂から出たらどうするのですか?」
早苗が聞く。
「―――?俺の方は、後で機体から私服取ってきて寝るよ」
「そうなのですか?実はですね…」
早苗はシンの耳元であることを囁く。
その内容は、神様が居るため、シンと早苗の寝室が一緒というものだった。
「俺…もう突っ込む気力さえ起きないよ…」
シンは力が抜けるようにその場でへたり込む。
そして、二人は風呂場を後にした。


二人分の布団を広げる。
押入れの扉を閉めて、シンと早苗は向かい合う。
「マジで寝るのか?」
「マジで寝ましょう」
シンは緊張しながら片方の布団に入る。
早苗も同じく緊張しているようで、震えながら布団に潜り込んだ。
明かりを消す。
辺りは月の光以外、光源が存在しなくなった。
「なぁ、早苗」
シンは寝る前に彼女に言いたいことがあった。
「はい?シン」
「家族っていいよな…早苗が羨ましいよ」
今日一日見ていた、早苗達が笑っている姿。
シンはそれを見て、少しだけ羨んでいたのだ。
「シン…」
「俺は家族無くしてからずっと一人だったからさ…早苗達を見ていると、やっぱりいいもんだなって思っちゃって。嫉妬なのかな…これって。でも、俺は…」
「何も言わなくていいですよ…」
「早苗…」
「シンは頑張っているのですから…いざというときは、ここへいらっしゃってください。シンはもう、私達と互いに笑いあえる柄なのですから…」
隣から聞こえてくる彼女の囁き。
シンはそれに応えようとしたところで、猛烈な眠気が襲いかかって来た。
彼女の声が子守唄の様に、心地よく鼓膜を打ってくる。
シンはその感覚に身を委ねて、
そのまま、眼を閉じた。


PHASE- 12 開かれる天空


「昨夜は楽しめたのか?」
「「ブハッ!」」
シンが守矢神社で泊まって翌日。
彼は早苗、神奈子、諏訪子と共に朝食を馳走になっていた。
そのさなか、神奈子が唐突に先程の言葉を二人にかけたのだ。
「ななな、何を言っているのですか!?神奈子様」
「神奈子さん!いきなり何を!?」
「いや、昨日の夜二人で寝たんだろう?」
「誤解を招く発言は止してください!」
「あーうー…昨日は私が夜通し部屋の扉で聞き耳をたててたのに何も聞こえなかったんだもの」
「そんな事してたのかよ!?あんたは!」
騒がしくなる四人。
辺りは鳥のさえずりがはっきり聞こえるほど静かなのに、守矢神社は喧噪で賑わっていた。
「もう!私達はまだ十七ですよ!そんな…その…出来るわけ無いじゃないですか!」
「ここでは常識にとらわれないのがお前の主義では無かったのか?」
「別でしょう!?それとこれとは…!」
「………はぁ」
「シン!!食べたら早く行きましょう!確か、にとりさんの所でしたねっ!」
「ああ、そうだけ―――」
「私はもう全部食べたので御馳走様!シンも早く召し上がって下さいね!」
ダン!―――と乱暴に箸を食器に置いて外に向かう早苗。
残りの三人はその迫力に度肝を抜かれたまま、呆然とした様子で視線を送っていた。
「やれやれ…あいつときたら…」
「初心な様子がまた可愛いねぇ~」
「……」
シンは無言で急ぎながら、朝食を胃に入れようと箸を進める。
麦飯を全部平らげて彼女を追いかけようと席を立った時、
「シン君…行くのか」
「あ、御馳走様でした。…ええ、早苗も怒っているから一人にするわけにはいかないし…」
「なら…あいつを宜しく頼む」
神奈子と諏訪子が言う。
その時の表情は昨日の巫山戯ていた表情とは違い、真剣な表情だった。
「え…」
「あいつは結構無茶する奴だからさ、いざという時は君みたいな少年が止めてくれると有難い」
「ああ見えて早苗は熱血だったり、何かにのめりこんだりタイプだからね。シンも彼女にリードされないように気をつけてよ」
シンは二人の顔に体ごと向き直して返答する。
「…ええ。わかりました。それじゃ、行ってきます!」
「おう!いってらっしゃい!」
軽く敬礼をして、外へ駆けるシン。
二柱の神はその背中を温かい視線で見送っていた。
「…よし、追いついた!」
地を蹴って、“デスティニー”の足元に立つ早苗のもとに駆けよる。
彼女はまだ怒っている表情だ。
「来ましたね、シン。なら、早く行きましょう!…もう!」
「そんなに怒るなよ…」
早苗がコクピットに飛翔し、シンは昇降用ワイヤーで乗り込む。
スラスターを操作し、紅い翼を背負った巨体が空に飛び立つ。
そして崖の下へ翼を広げ、“デスティニー”は作業場のもとへ飛翔していった。

「よし、着いた」
機体から降りて、二人はにとりの作業場に歩みを進める。
ハンガーのある場所に近づくと、聞き慣れた金属を擦るような音が鼓膜を打ってきた。
そこには、蒼い髪の毛に小柄な体。
水の様に涼やかな色で纏められた服を着て、何時もの様に機械いじりをしている河城にとりの姿があった。
シンは近づいて、彼女に声をかける。
「帰って来たよ、にとり」
「ん?―――ああ、なんだシンか。そして…早苗も一緒か」
「こんにちは、にとりさん」
にとりは手を止め、こちらに振り向く。
以前見たときと変わらない、口調と姿だった。
「その様子だと、アレは直せたんだろ?」
「ええ!そうですよ」
「何で早苗が答えるんだ…?まあな、にとりと早苗とさとりさん達のお陰だよ。サンキュな」
シンが笑みを浮かべて告げる。
にとりはそっぽを向いて、
「そ、そうか。それなら良いんだ…」
恥ずかしそうに答えた。
そして、そこであることを思い出す。
「ああ、そうだ。そういやシン、今お前は暇なのか?」
「暇といえば、暇なのかな。まだ帰る術も見つかって無いし、目的も無いし」
「なら、丁度私は里の方に買い出しに行こうと思っていたんだ。あんまり行く機会無いから、この際一気に買いだめしようと思っていてだな…シンには手伝ってほしいんだ」
シンの袖を掴んで、にとりが言う。
「以前寄った時は、ただ通っただけだろ?この際だから、お前に里の方も楽しんでほしいし…」
「あの里か…そういやそうだな」
「私もお手伝いしますよ。分社の様子も見ておきたいですし」
「なら、決定だな」
にとりが道具を置く。そして、外の川の方に歩きだす。
続いて、シンと早苗も追いかける。
「流石に、“デスティニー”は置いていた方がいいよな…」
「そうですね。これで里の方にいったら、パニックに成りかねませんよね…」
近くに置いてある機体を見上げて、シンと早苗が呟く。
「そういえば、シンは私服で行くのですか?」
早苗が聞く。それを聞いてシンは、
「そうだな…折角私服を着ているんだし、赤服は目立つしな」
「そうですか…なら、ちょっと私も着替えてきます」
「え?」
「さっき、神社からシンが来る前に、空いてたところに私の服を入れておいたのですよ。先ににとりさんと一緒に行っててください、直ぐに追いつきます。…そうそう。覗いたりしたらイヤですよ?」
言うなり、早苗は“デスティニー”の方に走る。
その姿を見ていたシンは、
「勝手に入れとくなよ…一応俺の機体なんだから」
顔に手を当てて、溜息を吐きながら呟いた。
それから数分。
シンとにとりは再び森の中を進んでいる。
しかし以前とは違って、にとり曰く近道の岩場をグライダーの様に飛びながら進んでいた。
「にとり、大丈夫なのか?君は疲れるとかいってたような…」
「はぁ…はぁ。それは、空に上がる時の話。この飛び方なら、お前だろうと運んでいける」
シンが腕の先のにとりに言う。
「それに…今はあいつもいないし」
「…なんか言ったか?」
高い位置の岩場から、下の地面に飛んでゆく。それの繰り返し。
地面を蹴る時の衝撃さえなければ、ロープウェイにぶら下がっているような感覚だった。
そして、
「はぁ…はぁ…よし、ここからは歩いていこう」
「大丈夫か?やっぱ俺を持ってたから疲れたんじゃ…」
地面に降り立つなり、息切れをしているにとりに問うシン。
にとりはその問いに応える。
「やっぱ…つかれた…シン、少し休んでいかない?」
「…はいはい」
近くの大きい岩に二人は座り込む。
隣のにとりは、胸に手を当てながら息の調子を整えようとする。
「悪いな…やっぱり機体持ってくりゃ良かったか」
「それはそれで大変だろ…?私なら大丈夫だ。どうしてもって言うのなら、すこし膝を貸してくれ」
「ん?どういうことだ?」
「こういうことだ」
にとりが近づき、シンの膝に頭を載せる。
にとりはシンの膝を枕変わりにする。俗に言う膝枕だ。
彼女の重みが膝に圧し掛かる。
シンは一寸照れながら、にとりを受け止めていた。
「ふぅ…落ちつく…シンの膝も良い物じゃない」
満足げな表情を浮かべて、にとりが呟く。
「そんなに良い物なのか?膝枕とか?」
「お前のだから良いんだよ…もう」
眼を瞑って彼女が呟く。
にとりの内心は安心と歓喜で満ち溢れていた。
そこで、シンはあることを思いつく。
自分の疲労だけで済み、その場から里に近づくことのできる簡単な方法を。
「疲れてるんだったら、俺が背負ってやろうか、にとり」
「…え?」
シンは彼女に提案する。
その内容は、にとりを担ぎながら里の方に歩くという物だ。
「いいよ、誰かに見られたら恥ずかしいじゃん!」
「だったら、見られない所まで担ぐよ。どの道、このままじゃ里の方に遅くなりそうだしな」
言うなり、シンは彼女を両手でつかんで背中に担ぐ。
シンの予想通り重さはそれ程でもなく、全力で走ることも出来るぐらいの余裕があった。
にとりは赤面しながら彼の背中に体を預ける。
「馬鹿野郎……」
「はいはい。行くぞ」
シンは早歩き気味に川の畔を歩きだす。
彼自身も世話になっている彼女の手助けをすることが出来て、気分は満足していた。
しかし、背中の彼女は、
―――もっと、ああしていたかったんだけど…
―――まあ、いいか。これはこれで。
密かに内心、嬉しく思いながら彼の背中に掴まっていた。

幻想郷の人間の里。
この世界の人間は、大多数がこの里で暮らしている。
賢者と呼ばれる妖怪がこの地を保護しており、この里にいれば妖怪に襲われることは殆ど無い。
妖怪もこの地に住むことが出来て、人間の妖怪を繋ぐ重要な場所でもある場所だ。
その外壁辺りでシンはにとりを背中から下ろす。
「着いたな。にとり、大丈夫か?」
「…うん。ありがと」
彼女は小さい声で礼を言う。
さて、早苗は来ているのか?―――と、見回してみると。
「あ、シン!待っていました!」
里の通路辺りから声が聞こえる。その方に向いてみると、
「早苗か、来ていたのか…って、あれ?」
大きく開いている、白いラインが入っている紺色の襟。
胸元には赤いタイを付けていて、襟と同じ色のスカートを履いている。
何時もの青と白を基調とした巫女服では無く、彼女はセーラー服を纏っていた。
シンは疑問に思い、近づく早苗に問う。
何で、その服なんだ?―――と。
「ああ、これですか?いえ、あの服は仕事着みたいなものですからね。今回は別に分社を見るだけですからこの服でも良いかなって」
「オフってことか…なるほどな」
シンは彼女の説明を聞いて頷く。
「まあ、いいけどさ…それじゃ、ここからは別れて買い物をしよう。私は金属とかゴムとか買いに行くから、シンはこれを買いに行ってくれ」
そうにとりに言われて、シンは紙切れを手渡される。
紙の表面には、主に胡瓜等の食料品の名前と個数が記されていた。
その中には、石鹸やガスコンロ等の名前もあった。
「胡瓜はまだしも…こんな物。例えばこのコンロとか、里で売っているのか?」
シンは疑問から問う。この里は見た目だけなら、C.Eの旧時代異常に古い街並みだったからだ。
「あら、御存じないのですか?以前私が来た時に、幻想郷でカルチャーショックがあったのですよ」
「カルチャーショック?」
「ええ、私達が持ち込んだ、電気製品やガス製品がこの世界では珍しかったみたいで。今では色んなものが人や河童さんの手で開発されているのですよ」
早苗が観光地を語るがごとく説明をする。
見た目とは裏腹に、この幻想郷は割と進んでいる技術を有していることが彼には分かった。
「私はシンのあの…タイトなスーツがあったろ?あれを直せる物を買いに行くよ。じゃあな」
手を振りながら、にとりがその場から離れる。
「それじゃ、ついでに一緒に行きませんか?シン」
「そうだな…早苗にまかせるか」
シンはまだ幻想郷の詳しい地理を知らない。
彼女に手を引いてもらいながら、シンは買い物を始めることにした。
「安いよ!こちらの魚は湖で取れたばっかだ!ほれ、そこのお客さんも!」
「今なら、肉をこれぐらいのサイズで売ってるよ!買った買った!」
「ほれ、そこの君!団子なんかいかがかな?」
里の彼方此方の店から売り文句が飛んでくる。
シンはその喧噪を聞きながら早苗と歩いていた。
「活気づいてるな…お祭りみたいだ」
「私も初めて来たときは少しびっくりしちゃいましたよ。きっと昔の日本もこんな感じなのかもしれませんね…」
辺りを見回しながら感嘆する。
早苗はシンの手を繋ぎながら歩いていた。なんでも、シンが逸れない様にするための措置らしい。
「お?何時もとは違う服だけど…守矢の早苗ちゃんじゃないのか?」
急に隣の店から声が聞こえてくる。
声の主と思われる店主は、豪快な笑顔を振りまく中年の男性だ。
店には、様々な団子が陳列しているあたり、恐らくは団子屋の類なのだろうと、シンは推測する。
「あっ!おじさん!お疲れ様です?」
「早苗?知り合いか?」
シンは早苗に聞く。
「ええ、時々ここによって団子とか買うのですよ。特にこのきな粉団子が丁度好くって…!」
「…おろ?そこのあんちゃんは、早苗ちゃんの知り合いかい?」
店主の顔がシンの方に向く、
シンは店主に向かって自己紹介をする。
「ああ、初めまして。シン・アスカです」
「シン・アスカ…変わった名前だな…外来人かえ?」
「ええ、まあ…」
愛想笑いを浮かべてシンは応対する。
「そうか…早苗ちゃんもとうとう…分かった、おじさんがサービスしよう」
「ホントですか!?」
「ああ、早苗ちゃん。ほれ、きな粉団子二つ分。仲良く食べね」
店の奥から、黄色い粉を塗してある団子を二つ取り出し、早苗に渡してくる店主。
早苗は笑顔でそれを受け取り、礼を言う。
「ありがとうございます!おじさん!」
「いいってことよ!ほれ、そこの椅子で食べなさい」
店の前の赤い布が引かれてある長椅子に二人は座り、シンと早苗はきな粉団子を口に頬張る。
「美味しい…こんな団子もあるんだな」
「でしょう?シン!」
独特の香ばしさと、団子の中身の餡子が入り混じった味に舌づつみを打つ。
店主も、それに温かい視線を送っていた。
「「ごちそうさまでした」」
「またいらっしゃい!」
団子を平らげた後、シンは早苗と買い物を再開する。
胡瓜、ご飯等々、食品をにとりから渡された金銭で購入してゆく。
その途中、シンは見覚えのある容姿を見かける。
忘れもしない、特徴的な紅白の巫女服。
頭に付けている大きな赤いリボン。
それは紛れもなく、幻想郷の巫女、博麗霊夢だった。
シンは見かけるなり、彼女に声をかける。どうやら、彼女も買い物をしている最中だ。
「あ、霊夢さん!」
「あら?シンじゃない。早苗もいっしょなんだ」
「御無沙汰です。霊夢さん」
シンは軽く会釈をする。
霊夢はシンにとって目上の存在。
なので、自然と軍隊気質のシンは体が動いてしまったのだ。
「そんなに畏まらなくてもいいわ。その様子だと、問題はある程度解決したの?」
「ええ、“デスティニー”も皆のお陰で直りましたし、後は元の世界に帰れる術ですね」
霊夢はそう。―――と言って、笑顔になる。
その様子をみていた早苗は、
「あら…やけに霊夢さんに対しては礼儀正しいんですね」
「え…そんなこと―――」
「…冗談ですよ。そんなに本気で受け取らないでください」
シンに対して茶化すような態度を取る。
「あんた達…やけに仲良くなってるわね…まあそんな事より。シン、早苗、異変の正体がわかったわ」
霊夢が呆れ顔で呟く。
当然シンと早苗は“異変”という名の言葉を聞いて、意識を霊夢の方に向ける。
「ホントですか?」
シンは霊夢に問う。
無意識に声量が大きくなってしまうくらいの声で。
「ええ。但し貴方の知りたい元の世界に帰れることじゃないけどね」
霊夢はそう断りを入れて言葉を紡ぎだす。
「最近、里でも噂になっている空飛ぶ船のことよ。私の直感では、あれは妖怪かはたまた何かを積んでいる船と予想してるんだけどね…何でも、あの船はつい最近地底から出たとか聞いたけど、もしかしたら何か妖怪が企んでいるかもしれない。だから、今度乗り込む気よ」
「異変…」
「私も神奈子様や諏訪子様からあの船に関して注意をせよと言われています。あれが妖怪の手によったりする物ならば調査したいと思っていました」
霊夢が異変の大元と察する船について語り出す。
早苗も自らの情報を霊夢と交換しながら話を進めてゆく。
「もしかしたら…シンが元に帰れる物があの船にはあるかもしれないわね」
「そうなんですか!?」
「ただの勘よ」
「しかし、以前までの周期から考えると、次に現れるのは数日後…それまで準備しないといけませんね」
シンは考える。
この異変の奥底には、自分の世界へ帰れる術があるかもしれない。
それに、霊夢にも早苗にも世話になったことがある。
シンは自らに出来ることを思い、霊夢に告げる。
「俺…その異変の解決に手伝わせて下さい!」
「シン…?」
「このまま何もしないで待つだけなんてゴメンです。俺にもそれを手伝わせて下さい」
「言っておくけど、遊びじゃないわよ。第一貴方、空を飛べないんじゃなくって?」
「大丈夫です、霊夢さん。私達にはとっておきがあります」
早苗が霊夢を遮り、不敵な笑顔を浮かべる。
そして、シンの方を見て言う。
「シン、私達も“デスティニー”で向かいましょう。もしかしたら、何かあるかもしれませんから」
なにかあるかもしれない。それが、元の世界に帰れる術かどうかは定かではない。
だが、異変を解決するのが巫女の仕事。そして、シンはそれを助けたいと思っている。
だから、シンは霊夢に、
「ああ!俺達で行きましょう、霊夢さん」
異変に挑む事を明確に意思に示す。
霊夢は軽く溜息を吐き、
「しょうがないわね…」
シンに対して心配の様子を見せながら、了承の意を示した。
霊夢と別れて暫く、
早苗とシンは里の道路近くの椅子に座りこんでいた。
シンの手には用事を全てすました買い物袋を持っている。
「シン。大丈夫ですか…?」
「どうしたんだ、早苗」
唐突に早苗が聞いてくる。
「いえ…たいしたことは無いのですが…シンが元の世界に帰ることで無理していないかなって思っちゃって。ダメですよね、私は応援すべきなのに…」
早苗が暗い表情で囁いてくる。
シンはそれを見て。
「大丈夫だ」
「え…?」
そして、続けて言う。
「俺は無理してなんかいない。俺の力で出来ることがあるのなら…」
「シン…」
「いまやれることは、これしかないんだ」
早苗に告げる。
自分に出来ることがあるなら、俺は皆の助けになりたい。
シンはそう思って彼女に言ったのだ。
「ええ…私達で答えを見つけましょう」
早苗もそれを聞いて笑顔を浮かべる。
「おーい!そっちは終わったかい!」
遠くから荷物を持ったにとりが駆けよってくる。
俺にもできることがあるなら―――
シンは自らの意思を再確認する。
新たな目的が、そこで生まれていた。