PLUS 早苗編


窓から光が差し込んでくる。

晴天から届いてくる、太陽の光。

光の輝きが増すとともに、室内の気温も徐々に肌寒いものから涼やかで汗一つ書くことの無い適温へ変化して行く。

シンは今、守矢神社の一室にいた。

以前と同じように友人の東風谷早苗に誘われて、一夜を明かす羽目になったからだ。

瞼を開いて、視界をハッキリさせる為に数回瞬きをする。

布団に入ったまま、自分の隣にある布団に視線を向ける。

そこにいる人物は既に分かっている。他でも無い早苗だ。

昨夜、彼女はこう言った。

『すいません、シン。また神奈子様から一緒に過ごせと言われたので、この様な事になりましたが…迷惑でしたか?』

溜息をつきながら、顔に手を当てる。

(なんていうか……よく普通に寝れるよな)

若葉の様に瑞々しい彼女の瞳は未だ閉じていた。

髪飾りを全て外した萌黄色の長く艶のある髪は彼女の可愛らしい顔に纏わりついている。

健康的な血色の口元からは規則正しい寝息が聞こえてくる。

そこには、美しくも愛らしい彼女が極めて無防備な状態でそこにいた。

シンは彼女の寝顔を見た途端、赤面する。

彼女の姿を見て素直に可愛いと思った自分に恥ずかしさを感じたからだ。

(っと。いけないいけない、こんな所で)

小さく首を振って、想像した行為を理性で吹き飛ばす。

いつの間にか距離が縮まっていた彼女との距離を離す為に、シンはその場から立ち上がろうとする。

すると突然、彼女の布団の中から白く細長い腕がこちらに伸びて来た。

「うわぁっ!?」

それを払い除けることも叶わずに、彼女の腕に服の袖を掴まれて引き寄せられた。

彼女の体が近づき、柔らかくて温かいものが自身の体に当てられる。

吐息が掛かりそうな位置まで顔と顔が近づき、眼の前の景色が正しく判断が出来なくなる。

シンは彼女に抱き締められる形になっていた。

彼女の手がしっかりと握ってくる。

逃れることも出来ないその状況の中、彼女の吐息に混じって寝言が聞こえて来た。

それを聞きとる為に耳を澄ましてみる。すると、

「すぅ……うふふ、つかまへましたよぉ、シン。あたしと一緒にいてくださいよぉ」

心臓が早鐘を打つ。

冷静な判断能力を削がれ、十分に力を入れる事も出来ないこの状況はシンにとってイレギュラーだった。

名前を静かに連呼しながら、早苗はこちらを掴んで離さない。

なすがままにいるシン。

彼女の十分に発育しているその艶やかな体は、シンの理性を激しく破壊していく。

(なんで朝からこうなるんだ!?)

抱き枕にされるが如く、乱れた彼女がさらに力を込めてくる。

お互いに乱れた着衣。

無数のしわが出来た布団に二人仲良く入って抱きついている。

こんな状況、神奈子や諏訪子に見られたら堪ったものではない。

逃げる術を必死で模索する。

体も心も、シンの理性も、全てが限界に近づこうしていた。

「バ、バカ。眼を開けろっ」

彼女の肩を掴んで激しく揺らす。

なすがままに首が揺れた後、早苗の瞳がこちらを向く。

「……………え?」

ぱちくりと眼を何回も瞬く。

腕の勢いが止んだ早苗を確認して安堵するシン。

しかし、今の状況が変わったわけではない。

早苗とシンは進行形で密着状態にあった。

早苗のぼんやりとした感覚が徐々に鮮明になり、今の状況を冷静に判断する。

なぜ、自分はシンを抱いているのか。

夢の中にいた彼を抱いていた筈なのに、本人が私と密着しているのか。

なぜ、彼は赤面して私から眼を背けているのか。

「ああ、あのっ私は!」

「えっと!とりあえず落ち着いて!」

同時に口を動かし、即座に絶句する。

数秒互いの顔を見た後。

「すみません、私ったら破廉恥ですよね……」

「い、いや。俺だってされるがままでこんなことに…」

「シンは何も悪くないです!」

「いや、俺が君に近づいたから!こんなっ!」

そこで早苗はある疑問を抱く。

シンが私に近づいた?なんで?

布団は別々だったのに?

その疑問から少しだけ躊躇しながらも彼に問う。

躊躇した理由は、彼が私に対して好意を持っているのかもしれないと思ったからだ。

「ねぇ、シン?」

「な、なんだよ」

「どうして、寝ている私に近づいたの?もしかして、その……エッチなこととか―――」

「違う!断じて!!」

「じゃあ、どうして?」

早苗は再び、今度は意図的にシンを逃がさない様に腕に力を込める。

流れが自分に向いた事を早苗は実感する。

優越感に浸りながら、彼の口から答えを聞こうとする。

そして、シンが観念したのか照れくさそうに囁く。

「それは……その…君があまりにも無防備に見えて…ちょっと可愛く想っただけで。そんな邪な気持ちで近づいたんじゃないから。別に早苗に何も手を出してもいないし…!」

「私に何もしなかった……と」

「寝ている女の子にそんな事出来るかっ…!」

早苗はそれをきいて、安心と若干の失望をする。

もしかしてシンって遠慮しているのかな?私の裸を見たくせに。

しかしその最中。

「ところでさ……」

「ふえっ?」

「俺達何時まで密着してるんだろう…な?こんな朝っぱらから…」

無言で呆然とする早苗。

確かに今は、その通りに早苗がシンを逃がさない処置をしている。己の両腕で。

だが、ここまで来ればもはやどうでもよかった。

彼と一緒にいたい。二神が何と言おうとこのチャンスをみすみす逃す様な真似をする気は無い。

だから、彼の耳元に口を近づけて静かに囁く。

「すいません、朝ご飯が遅くなるけどいいですか?」

言うなり、彼の言葉を聞かずに自らの布団に引き込む。

―――もはや二神などどうでもいい。今は己の意思だけに素直に従う!

これまで以上に強く、そして優しく彼を抱き締める。

―――この時が幸せ。

戸惑う彼の言葉を無視し、温かい布団の中で互いの手足を絡ませる。

その後。早苗が作る守矢神社の朝食はいつもより遅れたのは言うまでも無い。

 

 

「今日は里で信仰を広めるための運動をしますよ!シン!」

「なんでそんなに元気なんだよ……」

朝食を終えて神社を後にした二人は、里の広場に降り立つ。

二柱の神は勘が異常に鋭いのか、朝食中は常に早苗とシンを冷やかしていた。

当然早苗は、またもや怒りを露にし、シンは逃れることもできずに質問の嵐に襲われていた。

朝に起こった事は気にしない事にする。

二人で朝から密着していたなんて、誰にも言える事ではないからだ。

早苗は広場で道行く子供に声を掛けて、自身を囲ませる様に集めている。

彼女の“信仰を広める運動”とは一体何なのか。

興味を抱いたシンは、子供達の中心にいる彼女へ歩みを向ける。

「さて、皆さん!これから神の奇跡を見せてあげましょう!」

「神の奇跡ってなーに?お姉ちゃん!」

「面白そう!見て行きましょうよ!」

「お、守矢の嬢ちゃんじゃないか。今日も面白い事すんのかな?」

彼女が大声で宣言した途端に、子供だけでなく近辺の老若男女が一堂に会する。

シンは彼女に近づいて囁く。

「一体何をするんだよ…?」

「手品みたいなものですよ!」

快活に応答し、彼女がその手にある御幣で、五芒星の印を切る。

観客達のざわめきの中、高らかに言い放つ。

「秘術『グレイソーマタージ』!!」

印通りに五芒星を模った光の集合体が五つに分かれ、観客の上方で光を撒き散らす。

それは、観衆の瞳に強く焼き付いたであろう、間もなく周りから感嘆の意が湧き始めた。

「うわぁ、凄い凄い!」

「まるで雪みたい!」

「お星様が光ってるみたい!あんなに!」

銀色の輝きが、青天から降り注ぐ。

子供達が大声を上げて喜ぶ中、早苗は御幣を天に向けて次の奇跡を繰り出す。

「お次、行きますよ!奇跡『神の風』!」

上空に舞う銀の粒子が、一点に引き寄せられ渦を巻く。

シンも以前受けた事がある、彼女が自在に操れる不思議な風。

渦巻く光が幾度も回転した後、吹いていた風が止みさらに広い範囲に光が撒き散らされる。

それを手に取ろうと競う子供がいれば、眼を輝かせてその景色を眺める子供もいる。

多種多様な反応が早苗の奇跡に向けられていた。

皆の視線が彼女から奇跡に向けられている中、早苗はシンに近づいて耳打ちをする。

「次はシンにも手伝ってもらいますよ?」

「え、いきなり何!?」

「私の合図で、貴方の“フラッシュエッジ”を札に投げて下さいね!」

簡潔で少ない指示を告げた後、即座に元いた場所に戻って懐に手を伸ばす。

そこから取りだされたのは、無数の札。しかし、以前目にした戦闘用の“対妖怪用御札”ではない様だった。模様からの外見上の違いがハッキリと見て取れた。

早苗がこちらに小さく振り向き、横目でウインクをした後に無数の札を空の方へ投げる。

「さあ、とどめの真打ちと行きますよ!」

投げられた札が、風に乗ってゆっくりと落ち、早苗がシンの方を向いて投げる動作を促す仕草をする。

シンは突然の振りに慌てながらも、二振りのエッジを札に投げて接触させる。

想像していた爆発とは違う。

エッジが破りさった札からは“大吉”という文字を出しながら、辺りに火花と光をばら撒く。

耳を突く激しい音と共に、青空のキャンバスに火花がちらつく。

そう、それは真昼に輝く星の様にも見えた。

日の光と共に空に輝く奇跡は、里の人々に歓喜を巻き起こす。

シンは早苗の方に注視する。その歓声を一心に受けている彼女は、眩しくてそれでいて神々しく見えた。

早苗曰く、“手品”が終了して数分が経った後。

集まっていた人々は散り、辺りは再び長閑な雰囲気を醸し出す里に戻っていった。

先程と違う所が合うとすれば、喜んでいた子供達が彼女の傍で賑やかになっている事だ。

シンは彼女の近くに立って腕を組み、それを穏やかな表情で見守る。

「ねえねえ!早苗お姉ちゃん!もいっかいあれ見せて!」

「早苗さん!どうやったら出来るのあれ!?教えてよ!」

「はいはい。えーとですね…」

幼児の要望に追われる早苗。

本当に奇跡が操れるんだな…大勢の人を一気に驚かせるなんて。

早苗の技を思い出して、感慨に耽る。

子供達が様々な質問を早苗に浴びせる中、一人の女の子がシンの方を指差しながら、早苗に質問を投げつけてきた。

「つかぬことを聞くです!二人は恋人なのですか?」

「はい?ってええ!?」

「な、なにを行き成り!?」

どっ、と子供達が笑いだす。

その中にはうろたえている早苗の袖を掴んで、こう宣言する子供もいた。

「やだやだ!早苗お姉ちゃんは僕が貰うの!」

「いーやっ!僕のお嫁さんだ!このお兄ちゃんより僕の方が先にすきだったんだよ!」

「僕が姉ちゃんをすきなんだよ!お兄ちゃんなんかにわたすもんか!」

「ちょ、ちょっと君達!くすぐったい!」

早苗の腕を引っ張りながら頬を膨らませる幼児もいれば、抱きついて彼女を困らせる幼児もいる。

早苗は抱きつく子供を優しく離して、頭を撫でながら静かに諭す。

「あのね、僕?私の事が好きなの?」

「うん!だいすき!おおきくなったらおねえちゃんとケッコンするんだ!」

「気持ちはありがとね。でも、今は早すぎるよ。大きくなって気持ちが変わらないんだったら、その時は考えてあげるからね」

「……うん!わかった!」

それを聞き、彼女は優しく微笑を浮かべて子供の頭を撫でる。

子供は照れた顔を俯かせながら、片手を掲げて喜びを露にする。彼女に撫でられた事が嬉しかったのだろう、とびきりの笑顔を振りまいていた。

早苗の方に数人の男の子が寄って、シンの方には残りの幼い女の子達が迫ってくる。

早苗と共に子供達の相手をする。

彼女から手毬を渡されて、お手玉を披露するシン。

彼女の様に奇跡を起こしたり光の弾を生み出す事は出来ないが、それでも眼の前に集まっている子供達は喜んでいるようだった。

心が安らげる、温かい時間。

シンは早苗と共に、子供達との遊戯の時を過ごしていた。

「大成功でしたね、シン…」

「まさか君がああいう事をしているなんてな……流石に驚いたよ、あんなの」

風神の湖。

里で子供達の相手という名の一仕事を終えた二人は、守矢神社近くにある風神の湖の畔で腰を下ろしていた。

湖の向こう側から吹いてくる風が二人の間を通り抜けてゆく。

シンは話題を作る為に、先刻の彼女について問う。

「そういや、子供達に人気だったよな……早苗って結構モテモテなんだな」

「もう、茶化さないでくださいよ!子供の言うことなんですから」

「でも、結婚してくれって言う子供がいるなんて随分な人気じゃないか」

「シンだって、小さい女の子達に詰めかけられてたじゃありませんか。人の事言えないですよ、シン」

彼女が言うには、子供達と親睦を深めることも信仰を広める手段の一つだという。

元は神奈子が発案したらしく、里の人々と身近な関係になる事で信頼関係を築きあげる事が目的らしい。

最初の方こそは道行く人々にそれは見向きもされなかったが、里の子供達と遊んだり話をしたりしていると、自然と里と神社の距離が縮まったという。

大らかな態度で誤解していた神奈子に対して再認識をするシン。

目の前の水面を眺めながら口元を緩める。

一息をつく中、早苗は。

「ねぇ、シン?」

「うん?どうかしたのか?」

隣にいる早苗が立ちあがって囁く。

早苗は靴と靴下を脱いで近くの草むらに置いた後、服のスカートを上げて目の前の湖にゆっくりと脚を入れる。

「きゃっ、冷たい!」

二、三歩歩いた後、こちらの方にその笑顔を向けてきた。

「そこでまったりするのもいいですけど、こっちの方が涼しいですよ?」

白く細い脚を澄んだ水に浸けながら、彼女が湖の方から誘ってくる。

「いや、俺は―――」

「遠慮せずにっ!」

腕を掴まれ、早苗の方に圧し掛かるシン。

その体重を彼女が支える事が出来る筈も無く、押し倒される形で水面に体ごと突っ込んでしまう早苗。

足が届く程浅い畔で、水の跳ねる音が辺りにこだまする。

シンは濡れた顔を上げて、目に入った水を擦り落とす。すると眼の前から非常に扇情的な光景が飛び込んで来た。

水でずぶ濡れの姿へ変わった、東風谷早苗の姿。

濡れた彼女の長髪は、水に浮かんで彼女の頭の周りに漂っている。

元々薄手の巫女服の布は、色が白色なのも相まって、その内側にある彼女の白い肌を布越しに曝け出していた。

その曲線美に緊張しながらも一瞬心を奪われる。

胸部には下着らしき物を着けているのか、その部分の肌は露になっていない。

それはある意味彼にとっては救いに等しかった。

そして、極めつけの問題が今、彼の内心を焦りに駆らせていた。

倒れた時の拍子なのか、濡れた体の状態でお互いに抱き合いながらその場にいる事である。

 

もう一度言うが、濡れた状態でお互いに抱き合っているのだ。

 

この状況、友人のヨウラン・ケントがもしこの場にいれば彼は迷わず次の言葉を発するであろう。

“この、ラッキースケベ!”と。

仮にいたら即刻黙らせるが。

「ご、ゴメン!」

一応の謝罪を伝え、体を起こす。

早苗は乱れた着衣を抱く様に腕を組み、シンとは反対の方向に向く。

そして、静かに次の言葉を放つ。

「シンったら、えっちです」

その言葉に怒気は感じられない。

むしろそのか細い声と態度は、彼女の羞恥を表すには十分すぎた。

体温を冷やさせない様に、彼女の体を支えながら陸に引き上げて、自分の着ている上着を彼女に被せる。

この上着も例外なく濡れているが、透ける様な代物ではないので我慢してもらう。

こんな情欲をそそる様な姿を他の住人に見られたら、それこそ堪ったものでは無いからだ。

互いに赤面しながら神社の方に歩む。

この時ばかりは神奈子と諏訪子に心から出会いたくないと思う彼だった。

落ち着かない心境で守矢神社に戻った後。

自分の服をそこいらに脱ぎ散らかすという訳にはいかないので、シンはまだ濡れた私服を着ている。

これまでの一連の動作で、二神に会わなかった事が不思議なくらいだ。

いや、既にどこかで目撃されているのかもしれない。諏訪子の以前の発言のことだ、何があるか分からない。

そんなことは決してあってほしくない事なのだが。

彼女が風呂に入る前に聞かされた、服が入っているという箪笥に手を掛けようとして躊躇する。

―――これ、開けちゃったら俺まずくないか!?あらゆる意味で。ええい、まま!

目を瞑って勢いよく箪笥を引き出す。

中にあったのは予備の青白の巫女服とセーラー服。それに彼女の世界の服なのか、現代的な意匠のシャツが数着そこに収まっていた。

―――よかった。心配していたものが無くて…

その中から今の早苗に適している服。それを思案した揚句、予備の青白の巫女服に手を伸ばす。

適当な服を直感で選んだだけ、趣味で選んだわけでは無いと自分に言い聞かす。

服を両手で持ちながら、脱衣場の方に向かう。

濡れた私服が肌に纏わり、不快になる。

早く自分も風呂に入りたいとシンは内心呟きながら、脱衣所の扉に手を掛ける。

彼女は湯船に浸かっているらしかった。

脱衣所で鉢合わせという最悪の事態を避ける事が出来、緊張感から胸を撫で下ろす。

「早苗。君の服、ここに置いとくからな」

手を口元に添えて、扉の向こうに聞こえる様に呼びかける。

「はい。ありがとうございます~」

彼女の礼が聞こえた所で、脱衣所から出ようとする。

その時、寒気を堪えながら肩を震わせていた彼に風呂場から早苗の声が聞こえて来た。

「シン!」

「な、なんだよ」

「寒くないですか?」

「ああ、寒いね」

そこで一瞬彼女の言葉の紡ぎに間が空く。

しかし、次に聞こえて来たのはやはりというか予想の範疇内ではあったものの、シンをまたもや平常心から引き離す言葉だった。

「なら……また一緒に入りませんか…?」

「え!?なんで!」

「寒いのでしょう?それに、シンは、私に乱暴なんかしないじゃないですか?」

「………」

「わ、私だって貴方ぐらいにしかこんなこと言いません!これでも私はシンのこと信じているのですから……」

「俺、知らないからな?神達に何いわれても。」

「そこは私がどうにかしますから……来て」

強い意志を持った早苗を止める事は出来ない。

それを達する事が出来なかった時は、非常に傷つきやすいタイプの女の子だ。

数分葛藤した後、脱衣所に掛けてあったタオルに手を伸ばして体に巻きつける。

まさか、再び共に風呂に入るとは。

予想など、もはや役に立たなかった。同年代の少女とここまで親密になること自体が、彼にとって初めてだった。

扉の向こうにあるモノを想像すると、体中の血液が沸騰しそうになる。

過度な深呼吸を繰り返して、扉を恐る恐る開けた。

以前とは違い、明るい露天風呂の中。

日の光が湯気を照らし、その中に華奢な影がある。

見慣れた訳ではないが、いつ見てもその彼女の姿には心を奪われる。

芸術作品の様にきめ細やかな美しさをほこる彼女は、その意味では圧倒的な存在だった。

この気持ちは正しくなんというのだろう。

それを上手く形容できないシンは、見とれた自分を激しく恥じながら湯船に近づく。

「え、えっと!もう寒くないよな!?」

自分でも何を言っているのだろうと思う。

酷く焦った口調で彼女に問いかけながら、湯に体をつける。

「ええ、早めに入ったおかげでなんとか風邪を引かずに済みそうです。シンは大丈夫なのですか?」

「調整された時の免疫があるからね。俺も病気にならずに済みそうだよ」

「よかった…」

なるべく彼女の姿を見ない様に会話する。

見れば、自分の体をめぐる血液が一点に集中するかもしれないからだ。それは避けなければいけない、でないと自分を抑える事が出来ない。恐らく。

「っていうか、そもそも早苗が湖に入るからいけないんだぞ。君が楽しそうに遊ぶのはいいけど、俺まで引き込もうとするから―――」

「私のせいですか…?」

「そ、そんな目をするなよ。でも事実だろ?」

話を持ち出して自分の心を情欲から逸らす。

つい口調が荒くなってしまったが、仕方がなかった。彼女に手を出してしまう事よりかはよっぽどマシだ。

正直、あらゆる意味で限界。

穴があったら入りたい。彼女の機嫌を気にする事が無かったら即座に逃げ出したかった。

「シン……もしかして無理してる?」

「な、なにが」

「さっきからお顔真っ赤ですし……息も何処か荒そうに見えますから」

「いや、普通はもっとひどいことになると思うけど……」

早苗がシンの隣に座って問いかける。

細く長い指を、静かに肩に触れながら彼女は囁く。

「楽に……してあげましょうか?」

その囁いてきた彼女の誘惑は酷く甘美だ。無言で頷く。

刹那、自分の行動を悔いるよりも彼女が手を伸ばしてくる。

心臓の鼓動が激しくなり、目の前の事しか考えられない。

彼女が自分を包み込むように密着した後、彼の理性はいとも簡単に崩れ去っていった。

 

 

「さあ、御夕飯ですよ」

「おお~!やっぱ神奈子の粥より早苗のご飯が一番だよ~!」

「私達は朝から河童のアドバルーンの技術提供に行っていたからな…いやはや、疲れが身に染みたというものだよ」

「頂きます!」

諏訪子、神奈子は神社に帰宅した後。

其々が手を合わせて決まり文句を発し、眼の前に並べられた皿に盛りつけられた食べ物に箸を伸ばす。

そう、早苗達は夕食にありついていた。

「おお、なんかこのご飯美味しい感じがするねぃ」

「お米を炊いてくれたのはシンなのですよ!私がこれとこれの材料を切っている間に、彼に米研ぎ等をやって頂きまして……」

「えーと、ありがとうございます。諏訪子さん」

(ほう……これはこれは)

諏訪子が麦ご飯を勢い良く食べて、おかわりを告げる。

シンはそれを受けて彼女の碗にご飯を注ぐ。

「そういえば、今日は二人だったんだよな?」

「えっ…はい」

「何をいきなり、神奈子様。確かに今日は一緒でしたけど…」

神奈子が二人に問いかける。

「ならば、やっぱりくっついたよな!よな!」

「ハァ!?」

「神奈子様!?」

「そりゃ、同じ屋根一つで一日何もしてない訳は無いだろう!詳しく聞かせるんだ、な!」

「おお!あたしも興味があるよ!どんなだった!?」

神奈子が豪快に笑い飛ばしながら茶化し、諏訪子が興味深そうにその丸い目を輝かせる。

シンは思わず敬称をつけ忘れるほど動揺し、早苗は冷や汗をかいて顔をひきつらせている。

「どどど、どうしましょう!?なんて答えましょう!」

「ああ、もう!なんでこんなことになるんだぁっ!」

 

悲痛の叫びをあげて早苗と顔を見合わせる。

夕食が終った後、小一時間二柱の神に二人は一日の出来事を問い詰められたのは、言うまでも無かった。